Bible in 90 Days
20 サウルは地面に棒のように倒れてしまいました。サムエルのことばを聞いて、恐怖のあまり卒倒したのです。それに丸一日、食べ物を何も口にしていなかったのです。 21 霊媒の女はサウルが錯乱しているのを見て言いました。「王様。私は、いのちがけでご命令に従ったのです。 22 今度はこちらの言うとおりにしてください。食べる物を差し上げますから、それで元気を取り戻してお帰りください。」
23 王は首を横に振りました。しかし、供の者たちもいっしょになってしきりに勧めたので、ついに折れ、起き上がって床に座りました。 24 その家には、太った子牛がいました。女は急いで子牛を料理し、小麦粉をこねてパン種を入れないパンを焼きました。 25 料理が運ばれると、一行は食事をし、夜のうちに立ち去りました。
ペリシテ軍からの離脱
29 さて、ペリシテ軍はアフェクに集結し、イスラエル軍はイズレエルにある泉のほとりに陣を張りました。 2 ペリシテ軍の隊長たちは大隊や中隊を率いて進軍し、ダビデとその配下の者たちはアキシュ王を守ってしんがりを務めました。 3 しかしペリシテ人の指揮官たちは、「このイスラエル人どもは、いったいどうしたのです」と王にただし始めたのです。するとアキシュ王は、「イスラエルの王サウルの家来ダビデだ。私のもとに落ち延びて、一、二年になるが、今日まで一つもやましい点はなかった」と弁護しました。 4 しかし、指揮官たちは腹を立てるばかりです。「追い返してください! 彼らがいっしょに戦うはずはありません。せいぜい裏切るのが落ちです。戦場で向こうに寝返れば、彼は主君と手打ちする絶好のチャンスなのですよ。 5 イスラエルの女が踊りながら、『サウルは千人を殺し、ダビデは一万人を殺した』と歌ったのは、この人のことですから。」
6 とうとうアキシュは、ダビデたちを呼んで、こう言い渡さなければなりませんでした。「主に誓って言うが、あなたたちは、私がこれまで会った中でも、ことにすぐれた面々である。ぜひ行動を共にしてもらいたかったが、あの指揮官どもが承知しないのだ。 7 彼らを刺激してはまずい。ここは穏やかに引き返してくれないか。」
8 「いったい私たちが何をしたのでしょう。引き返せとはあんまりです。どうして、あなたの敵と戦わせていただけないのでしょうか。」
9 しかし、アキシュ王は首を振りました。「私が知る限り、あなたは神の使いのように完璧だ。だが、あの指揮官どもは、いっしょに戦場に臨むのを恐れているのだ。 10 明日の朝、早く起きて、夜明けとともに出立してくれ。」
11 そこで、ダビデは自分の部隊を率いてペリシテ人の地へ帰りました。一方、ペリシテ軍はイズレエルへと進軍しました。
アマレク人追撃
30 三日後、ダビデたちがツィケラグの町に帰り着いてみると、どうでしょう。アマレク人が町を襲って焼き払い、 2 女や子どもをみな連れ去ったあとだったのです。 3 ダビデとその部下は町の焼け跡を見て、家族の身に起こったことを知り、 4 声がかれ果てるまで大声で泣きました。 5 ダビデの二人の妻、アヒノアムとアビガイルも連れ去られていました。 6 ダビデは苦しみました。さらに悪いことに、子どもたちの身を案じて悲しむあまり、部下の中からダビデを殺そうとする動きさえ出始めたのです。しかし、ダビデは主から力づけられました。
7 ダビデは、祭司エブヤタルにエポデを持って来させると、 8 主に伺いを立てて言いました。「あの者たちを追うべきでしょうか。追いつけるでしょうか。」
主は答えました。「追いかけよ。奪われたもの全部を取り返すのだ。」
9-10 ダビデは「それっ!」とばかり、六百人を率いて、アマレク人を追撃しました。ベソル川まで来た時、二百人の者は疲れきって渡ることができず、四百人だけが前進しました。 11-12 追撃の途中、野原で一人のエジプト人の若者に出くわしました。さっそくダビデの前に連れて来ると、三日三晩、何も口にしていないというのです。そこで、干しいちじくと、干しぶどう二房、それに水を少し与えると、すぐに元気になりました。 13 ダビデは、「何者だ。どこから来たのか」と尋ねました。
「エジプト人で、アマレク人の召使でした。ところが病気になったものですから、三日前に、主人が置き去りにして行ったのです。 14 私たちはネゲブのケレテ人を襲って帰る途中、ユダの南部とカレブの地をも襲い、ツィケラグを焼き払いました。」
15 「アマレク人がどこへ行ったか、案内してくれるか。」
「いのちを助けてくれますか。主人に渡したりしませんか。もし、神にかけて誓ってくださるなら、案内しましょう。」
16 こうしてその若者は、ダビデをアマレク人の野営地に案内しました。彼らはあたり一面に散らばって、食べたり飲んだり踊ったり、お祭り騒ぎの最中でした。ペリシテ人やユダの人々から、戦利品を山ほど手に入れたからです。 17 ダビデと部下の者はその中に突入し、その晩から翌日の夕方までかかって、彼らを打ち殺しました。らくだに乗って逃げた四百人の若者のほかは、一人も取り逃がしませんでした。 18-19 アマレク人に奪われたものは残らず取り戻しました。家族全員を救い出し、持ち物を全部取り返したのです。もちろん、ダビデの二人の妻も救い出されました。 20 一隊は羊や牛の群れを駆り集め、群れを先導して行きました。みなはダビデに、「これは全部、あなたのものでございます。あなたのご功績ですから」と言いました。
21 さて、二百人が極度の疲労のため前進を断念した、ベソル川まで来ると、ダビデは喜んでその人々の歓迎に応えました。 22 ところが、ダビデに同行した者たちの中には意地の悪い者もいて、口々にこう言い始めたのです。「彼らはいっしょに行かなかったのだから、戦利品の分け前をやることはない。妻子だけ返してやって、帰らせよう。」
23 しかし、ダビデはさとしました。「それはいけない。主がわれわれを守り助けてくださったおかげで、敵を打ち破れたのではないか。 24 そんなことを言って、いったいだれが納得すると思っているのだ。戦いに行く者も、銃後の守りを固めた者も、平等に分け合おうではないか。」
25 以来、ダビデはこのことを全イスラエルの規律とし、今もそのとおり行われています。
26 ダビデはツィケラグに帰ると、ユダの長老たちに戦利品の一部を送り、「これは、主の敵から奪い取ったもので、皆さんへの贈り物です」と書き添えました。 27-31 贈り物が届けられたのは、ダビデたちが立ち寄ったことのある、次の町々の長老たちです。ベテル、ネゲブのラモテ、ヤティル、アロエル、シフモテ、エシュテモア、ラカル、エラフメエル人の町々、ケニ人の町々、ホルマ、ボル・アシャン、アタク、ヘブロン。
サウルの死
31 その間に、ペリシテ人はイスラエル人と戦いを始めました。イスラエル軍はあえなく敗走し、ギルボア山で大多数が戦死しました。 2 ペリシテ軍はサウルを追い詰め、息子のヨナタン、アビナダブ、マルキ・シュアを殺しました。
3-4 なお、射手たちはサウルをねらい打ちにし、ついに致命傷を負わせました。王は苦しい息の下から、よろい持ちの護衛兵に言いました。「あの、神を知らぬペリシテ人に捕らえられて恥辱を受けるより、いっそ、おまえの剣で殺してくれ。」しかし、よろい持ちが恐れてためらっていると、王は自分の剣を取り、その切っ先の上にうつ伏せに倒れ、壮烈な最期を遂げました。 5 王の死を見届けると、よろい持ちも、自ら剣の上にうつ伏せに倒れて殉死しました。 6 こうして、同じ日のうちに、王と三人の息子、よろい持ち、それに兵士たちが次々に死んだのです。 7 谷の向かい側やヨルダン川の対岸にいたイスラエル人は、味方の兵士たちが逃げ出し、王とその息子たちが死んだことを聞くと、町々を捨てて逃げ去りました。それで、その町々にはペリシテ人が住むようになったのです。
8 翌日、ペリシテ人は死者たちの遺品をはぎ取りに来て、サウルと三人の息子の遺体をギルボア山で発見しました。 9 彼らは王の首を切り、武具をはぎ取りました。そして、国中の偶像の神殿と国民とに、サウル王を討ち取ったという朗報を伝えました。 10 サウル王の武具はアシュタロテの神殿に奉納され、しかばねはベテ・シャンの城壁にさらされました。 11 ヤベシュ・ギルアデの住民は、このペリシテ人の仕打ちを聞くと、 12 さっそく勇士たちが夜通しベテ・シャン目指して歩いて行って、サウル王とその息子たちの死体を城壁から降ろし、ヤベシュに運んで火葬にしたのです。 13 その骨はヤベシュにある柳の木の根もとに葬られ、人々は七日の間断食して、喪に服しました。
サウルの死を知ったダビデ
1 1-2 サウルが死んだあと、ダビデはアマレク人を討って、ツィケラグに引き揚げて来ました。その三日後、イスラエル軍から一人の男がやって来ました。男は破れた服をまとい、頭に土をかぶっていて、ひと目で喪に服していることがわかりました。彼はダビデの前に出ると、深い敬意を表して地にひれ伏しました。
3 「どこから来たのだ」とダビデが聞くと、「イスラエルの陣営から逃れてまいりました」と彼は答えました。
4 「何かあったのか? 戦いの様子はどうなのだ。」ダビデはせき込んで尋ねました。
「イスラエルは散り散りです。何千という兵士が死に、また負傷して野に倒れています。サウル王も、ヨナタン王子も殺されました。」
5 「サウル王とヨナタンが死んだと! どうしてわかったのだ。」
6 「私はギルボア山におりましたが、槍にすがってようやく立っている王様に、敵の戦車が迫るのを見たのです。 7 王様は私を見るなり、こっちへ来いと叫ばれました。急いでおそばに駆け寄りますと、 8 『おまえはだれか』とお尋ねになります。『アマレク人でございます』とお答えしますと、 9 『さあ、私を殺してくれ。この苦しみから救ってくれ。死にきれないのがつらくて耐えられないのだ』とおっしゃるのです。 10 そこで私は、もう時間の問題だと察したので、あの方にとどめを刺しました。そして、あの方の王冠と腕輪の一つを持ってまいりました。」
11 この知らせを聞いて、ダビデと部下たちは悲しみのあまり、めいめいの衣服を引き裂きました。 12 彼らは、死んだサウル王とその子ヨナタン、それに、主の民といのちを落としたイスラエル人のために喪に服し、泣きながら終日断食しました。
13 ダビデは、王の死を告げに来た若者に言いました。「おまえはどこの者だ。」
若者は答えました。「アマレク人で、在留異国人でございます。」
14 「どうして、神に選ばれた王を手にかけたのか」と、ダビデは詰め寄りました。
15 そして部下の若者の一人に、「この男を打て!」と命じたのです。若者は剣を振りかざして走り寄り、そのアマレク人の首を打ち落としました。
16 ダビデは言いました。「自業自得だ。自分の口で、主がお立てになった王を殺したと証言したのだから。」
哀悼の歌
17-18 ダビデは、サウル王とヨナタンにささげる哀歌を作り、これがイスラエル中でのちのちまで歌い継がれるように命じました。英雄詩にその詩が記されています。
19 「ああ、イスラエル。
おまえの誇りと喜びは、しかばねとなって丘に横たわる。
大いなる英雄たちは倒れた。
20 ペリシテ人には告げるな。喜ばせてなるものか。
ガテとアシュケロンの町にも告げるな。
神を知らない者たちを勝ち誇らせてなるものか。
21 ギルボアの山よ、
露も降りるな。雨も降るな。
いけにえのささげられた野にも。
偉大なサウル王が倒れた地だから。
ああ、その盾は油も塗られず打ち捨てられた。
22 最強の敵を打ち殺したサウルとヨナタンは
空手で戦場から引き揚げたことはなかった。
23 ああ、サウルもヨナタンもどれほど愛され、
どれほどすぐれた人物であったことか。
生死を共にした彼ら。
鷲よりも速く、獅子よりも強かった。
24 さあ、イスラエルの女よ、サウル王のために泣け。
王は、おまえたちを惜しげなく着飾らせ、
金の飾りをまとわせてくれた。
25 偉大な英雄たちは、戦いの最中に倒れた。
ヨナタンは山の上で殺された。
26 わが兄弟ヨナタン。
あなたのために、どれほど涙を流したことか。
あなたをどれほど愛していたことか。
あなたの私への愛は、女の愛も及ばなかった。
27 ああ、勇士たちは倒れ、
武具は奪い取られ、彼らは死んだ。」
ユダの王となったダビデ
2 その後ダビデは、「どこかユダの町に上るべきでしょうか」と主に伺いを立てました。すると、「そうせよ」と主は答えました。「では、どの町へ行けばよろしいでしょうか」とダビデが聞くと、「ヘブロンへ」との答えでした。 2-3 そこで、ダビデと二人の妻、つまりイズレエル出身のアヒノアムと、カルメル出身のナバルの未亡人アビガイル、そして彼に従う者たちとその家族全員は、そろってヘブロンに移りました。 4 すると、ユダの指導者たちが集まって来て、ダビデをユダの家の王としました。ダビデは、ヤベシュ・ギルアデの人々がサウル王を葬ったと聞いて、 5 さっそく使者を遣わしました。「主君に忠誠を尽くし、丁重に葬ってくれたあなたがたに、主の豊かな祝福があるように。 6 どうか、主が真実をもって報いてくださり、その恵みと愛を表してくださるように。私からも礼を述べ、感謝のしるしにできるだけのことをしよう。 7 サウル王亡き今、私のもとで、忠実でりっぱな兵士として励んでもらえないか。私を王に立ててくれたユダの家のように。」
サウル家とダビデ家の戦い
8 しかし、サウルの将軍(司令官)であったアブネルは、サウルの子イシュ・ボシェテを王位につかせようと、マハナイムに移り住んでいました。 9 その支配は、ギルアデ、アシュル、イズレエルをはじめ、エフライムやベニヤミンの部族、その他の全イスラエルに及んでいました。 10-11 イシュ・ボシェテは四十歳で王位につき、二年間、マハナイムでイスラエルを治めました。一方ダビデは、七年半にわたり、ヘブロンでユダの王として支配しました。
12 ある日、将軍アブネルはイシュ・ボシェテの軍を率いて、マハナイムからギブオンに向かっていました。 13 一方、ツェルヤの子、将軍ヨアブも、ダビデの部隊を率いてギブオンに出向きました。両者はギブオンの池のほとりで、池をはさんで向かい合ったのです。 14 アブネルはヨアブに提案しました。「若い者同士で、剣の腕を競わせようではないか。」
ヨアブも異存はありません。 15 十二人ずつの兵士が選ばれ、死闘を演じることになりました。 16 互いが敵の髪の毛をつかんでは相手のわき腹に剣を突き刺して、結局、全員が死にました。以来、ここはヘルカテ・ハツリム〔剣が原〕と呼ばれるようになりました。 17 これが口火となって両軍は戦闘状態となり、その日のうちに、アブネルとイスラエル軍は、ヨアブの率いるダビデ軍に敗れました。
18 ヨアブの兄弟アビシャイとアサエルも、戦いに参加していました。かもしかのように足の速いアサエルが、 19 逃げるアブネルを追いかけました。ほかのものには目もくれず、一人逃げるアブネルをひたすら追い続けました。 20 アブネルは、追いかけて来る敵を見て、振り向きざまに「アサエルではないか」と呼びかけました。
「そうだ。」
21 「ほかのやつを追え!」と、いくらアブネルが言っても、アサエルは耳を貸さず、なおもアブネルへの追撃の手をゆるめません。 22 もう一度、アブネルは言いました。「あっちへ行け! もしおまえを殺すことにでもなれば、おまえの兄ヨアブに顔向けができない。」
23 それでも、アサエルは向きを変えようとしません。とうとうアブネルは、槍の石突きをアサエルの下腹に突き刺しました。槍は背を貫通し、アサエルはばったり倒れ、息絶えました。彼が倒れている場所に来た者はみな、そこに立ち尽くしました。
24 今度は、ヨアブとアビシャイがアブネルを追います。ギブオンの荒野の道沿いにあるギアハの近くのアマの丘まで来た時、ちょうど太陽が沈み始めました。 25 ベニヤミン族から召集されたアブネルの部隊は、丘の上で隊列を整えていました。 26 アブネルは、ふもとのヨアブに向かって叫びました。「いつまでも殺し合いを続けてはいられない。いつになったら、同胞同士で争うのをやめさせるつもりだ。」
27 ヨアブは答えました。「神にかけて誓うが、もしおまえがそう言わなかったら、われわれはみな、明日の朝まで追撃を止めなかっただろう。」 28 ヨアブがラッパを吹くと、兵士たちはイスラエル軍の追跡をぴたりとやめました。
29 その夜、アブネルと兵士たちは、ヨルダン渓谷伝いに退却し、ヨルダン川を渡って翌朝まで歩き続け、ようやくマハナイムに帰り着きました。 30 ヨアブの部隊も宿営に戻り、死傷者を数えてみると、欠けたのは兵士十九人とアサエルだけでした。 31 一方、全員がベニヤミン族であったアブネル側では、戦死者は三百六十人に上りました。 32 ヨアブの部隊は、アサエルの遺体をベツレヘムへ運び、父親のかたわらに葬りました。それから夜通し歩いて、夜明けごろにヘブロンに帰りました。
3 これが、サウル家とダビデ家との長い戦いの始まりでした。ダビデがますます権力を増していくのに反して、サウル王家は衰えていきました。
2 ダビデには、ヘブロンでの生活の間に何人もの息子が生まれました。長男のアムノンは、妻アヒノアムから生まれました。 3 次男のキルアブは、カルメル人ナバルの未亡人だったアビガイルから生まれました。三男アブシャロムの母親は、ゲシュルの王タルマイの娘マアカでした。 4 四男アドニヤはハギテから、五男シェファテヤはアビタルから、 5 六男のイテレアムはエグラから生まれました。
ダビデの側についたアブネル
6 内戦が続く中、アブネルはサウル家で押しも押されもせぬ政治的指導者にのし上がっていきました。 7 その地位を利用して、サウル王のそばめの一人だったリツパという娘と関係をもつようになりました。そのことでサウルの子イシュ・ボシェテから責められると、 8 アブネルはひどく腹を立て、言いました。「私は、たかがこれくらいのことで文句を言われなければならないユダの犬なのか。だれのおかげで、ダビデに売り渡されずにすんだのか。あなたのため、お父上サウル王のため、この私がどれほど尽くしてきたか。それなのに、あの女のことで難くせをつけて、恩を仇で返されるとは。 9-10 覚えておくのだ。主のお告げどおり、ダンからベエル・シェバに至る全王国をあなたから取り上げて、ダビデに渡す。もしできなかったら、この首を差し出そう。」
11 イシュ・ボシェテはもはやことばを返せませんでした。アブネルを恐れたのです。
12 アブネルはダビデに使者を立て、一つの申し入れをしました。全イスラエルを引き渡すのと交換に、自分をイスラエルとユダの連合軍の司令官にしてほしいというのです。 13 ダビデは答えました。「よいだろう。ただし、私の妻である、サウルの娘ミカルを連れて来てくれ。それが条件だ。」 14 それからダビデは使者を立て、イシュ・ボシェテに伝えました。「私の妻ミカルを返してほしい。ペリシテ人百人のいのちと引き替えにめとった妻だから。」
15 それでイシュ・ボシェテは、ミカルをその夫、ライシュの子パルティエルから取り上げました。 16 パルティエルはバフリムまで泣き泣きあとを追って来たものの、アブネルに「もう帰れ」と言われて、すごすごと引き返して行きました。
17 その間、アブネルはイスラエルの指導者たちと協議し、彼らが長年ダビデの支配を望んでいたことを確かめました。 18 「今こそ、時がきたのだ! 主が、『わたしはダビデによって、わたしの民をペリシテ人から、また、すべての敵から救い出そう』とおっしゃったではないか」と、アブネルは言いました。
19 アブネルはまた、ベニヤミン族の指導者たちとも話し合いました。それからヘブロンへ行き、イスラエルおよびベニヤミンの人々との交渉の経過を、ダビデに報告したのです。 20 二十人の部下を伴ったアブネルを、ダビデは祝宴を張ってもてなしました。 21 アブネルはダビデのもとを辞する時、こう約束しました。「帰りしだい、全イスラエルを召集します。多年のお望みがかないます。全国民はきっと、あなた様を王に選ぶでしょうから。」こうしてダビデはアブネルを送り出し、アブネルは安心して出て行きました。
アブネル暗殺
22 ちょうど入れ違いに、ダビデの兵士たちとヨアブが、戦利品をどっさりかかえて奇襲攻撃から戻って来ました。 23 ダビデのもとを訪れたアブネルとの話し合いが、極めて友好的だったと聞くと、 24-25 ヨアブは王のもとへ飛んで行きました。「あんまりではございませんか。アブネルをむざむざお帰しになるなど、もってのほかです。あの男の魂胆はご存じでしょう。われわれを攻めるために、動静を探りに来たに違いありません。」
26 ヨアブは直ちにアブネルを追わせ、連れ戻すようにと命じました。追っ手はシラの井戸あたりで追いつき、いっしょに引き返しました。しかし、ダビデはこのことを知りませんでした。 27 ヘブロンに着いたアブネルを、ヨアブは個人的な話があるように見せかけて、町の門のそばへ呼び出しました。そして、ヨアブはやにわに短剣を抜いてアブネルを刺し殺し、弟アサエルの復讐をしたのです。 28 この一件を知らされたダビデは言いました。「私は神にかけて誓う。私も民も、このアブネル殺しの罪には全く関与していない。 29 その責任は、ヨアブとその一族に降りかかるのだ。ヨアブの家は子々孫々、汚れた者、不妊の者、飢え死にする者、剣に倒れる者が絶えないだろう。」
30 ヨアブとその兄弟アビシャイがアブネルを殺したのは、ギブオンの戦いで殺された弟アサエルのかたきを討つためでした。
31 ダビデは、ヨアブおよび彼とともにいた全員に告げて言いました。「アブネルのために嘆き悲しみ、喪に服すのだ。」ダビデは墓地まで棺につき添い、 32 アブネルをヘブロンに葬りました。王も民もみな、墓のそばで声を上げて泣きました。 33-34 「アブネル、どうして愚かな死に方をしたのだ」とダビデは嘆き、歌いました。
「おまえの手は縛られず、
足もつながれなかったのに、
おまえは暗殺された、
悪い計略のいけにえとして」
民もまた、アブネルを悼んで泣きました。
35-36 弔いの日、ダビデは食事を少しでも口にするように勧められましたが、日没まで食を断つと誓って聞きませんでした。こればかりでなく、ダビデのすることなすことはすべて、人々を満足させました。 37 ダビデの行いをつぶさに見たユダとイスラエルの全国民は、それによってアブネルの死の責任がダビデにないことを認めたのです。
38 ダビデは家来たちに言いました。「今日、イスラエルで一人の偉大な指導者、偉大な人物が倒れた。 39 私は神に選ばれた王だが、ツェルヤのこの二人の息子に何もできない。どうか主が、このような悪を行った者に報いられるように。」
イシュ・ボシェテ暗殺
4 サウルの子イシュ・ボシェテは、アブネルがヘブロンで殺されたと聞くと、恐れのあまり気力を失い、彼の兵士もみな動揺しました。 2-3 これに乗じてイスラエル軍の指揮をとったのは略奪隊を率いていたバアナとレカブの兄弟で、二人はベニヤミンのベエロテ出身のリモンの子でした。ベエロテの人々は、以前ギタイムに逃げて今もそこに住んでいますが、なおベニヤミン人とみなされていたのです。
4 さて、亡きサウル王には、メフィボシェテという孫がいました。ヨナタンの息子で、足の不自由な子でした。サウルとヨナタンがイズレエルの戦いで倒れた時、彼は五歳でした。悲報が都にもたらされた際、乳母が彼を抱いて、あわてて逃げるうちにつまずいて倒れ、その子を落としてしまい、そのために彼は足が不自由になったのです。
5 レカブとバアナはある昼下がり、イシュ・ボシェテの家を訪れました。王はちょうど昼寝の最中でした。 6-7 二人は小麦の袋を取りに行くふりをして台所に近づき、こっそり王の寝室に忍び込んで、そこで王を殺し、首をはねました。彼らはその首をかかえて、一晩中、荒野をひた走りに走って、 8 ついにヘブロンにたどり着き、ダビデに差し出したのです。「よくごらんください。あなたのおいのちをねらっていた敵、サウルの子イシュ・ボシェテの首です。今日、主はわが王のために、サウルとその全家族に復讐してくださったのです。」
9 しかし、ダビデは答えました。「私をあらゆる敵から救い出してくださった神に誓って言う。 10 前にも、私が喜ぶに違いないと思って、『サウルが死んだ』と告げに来た者がいたが、私はその者を手討ちにした。それが、その者の言う『吉報』とやらに報いる答えだった。 11 まして、あの何の罪もない人を、家の中で、しかも寝床で殺すような不届き者を放ってはおけない。二人とも無事に帰れるとでも思っているのか。」
12 ダビデは側近の若者たちに、二人を殺すよう命じました。その死体は手足を切り離され、ヘブロンの池のほとりで木につるされました。しかしイシュ・ボシェテの首は、ヘブロンにあるアブネルの墓に運ばれ、埋葬されました。
イスラエルの王となったダビデ
5 イスラエルの全部族の代表者たちは、ヘブロンにいるダビデのもとに来て言いました。「私たちは、あなたと血を分けた兄弟です。 2 サウルが王であった時にも、ほんとうの指導者はあなたでした。主は、あなたこそイスラエルの指導者だとおっしゃっています。」
3 ダビデは、ヘブロンに集まったイスラエルの指導者たちと主の前で契約を結び、彼らはダビデをイスラエルの王としました。 4-5 ダビデはすでに三十歳の時から七年間、ユダの王であり、こののちエルサレムで三十三年間、イスラエルとユダの全土を治めることになったのです。ダビデが王位にあったのは、合わせて四十年になります。
ダビデの町エルサレム
6 さてダビデは、エルサレムに入り込んでいたエブス人と戦うために、兵を率いてエルサレムへ向かいました。彼らはダビデにこう豪語しました。「おまえなどに攻め入られてたまるか。おまえなど、歩けない者であろうと、目の見えない者であろうと、だれにでも簡単につまみ出せるわ!」彼らは安心しきっていました。 7 しかしダビデは、現在ダビデの町と呼ばれているシオンの要害を占領したのです。
8 彼らの暴言を耳にしたダビデは、「地下水路を通って町に攻め上り、歩けない、目の見えない憎きエブス人を滅ぼせ」と命じました。このことから、「目の見えない者や足の不自由な者は宮に入ってはならない」と言われるようになったのです。
9 ダビデは、このシオンの要害をダビデの町と呼び、自身の本拠地に定めました。ついで町の旧ミロ地区から北側に、現在のエルサレムの中心部に向かって城壁を築きました。 10 ダビデの勢力はますます強大になっていきました。天地を支配される神、主が共にいたからです。
11 ツロの王ヒラムからは、ダビデ王の宮殿建設のために、上等の木材、大工、石工が送られて来ました。 12 今やダビデは、主が自分を王位につかせ、豊かな王国としてくださったのは、神がイスラエルの民を選び出し、特別な恵みを注ごうとされたからであると、はっきり知ったのです。
13 ヘブロンからエルサレムに移ってからも、ダビデはさらに妻やそばめを迎え入れ、次々と息子や娘をもうけました。 14-16 エルサレムで生まれた子たちは次のとおりです。シャムア、ショバブ、ナタン、ソロモン、イブハル、エリシュア、ネフェグ、ヤフィア、エリシャマ、エルヤダ、エリフェレテ。
ペリシテ人を倒したダビデ
17 ペリシテ人は、ダビデがイスラエルの王になったと聞くと、何とか彼を捕らえようとしました。ペリシテ人来襲の報が伝わると、ダビデは直ちに要害に下って行きました。 18 ペリシテ人は、レファイムの谷一帯に陣を張りました。
19 「打って出て、戦うべきでしょうか。私は勝てるでしょうか。」ダビデは主に伺いを立てました。すると、「打って出なさい。ペリシテ人をあなたの手に渡そう」と主は答えました。 20 そこでダビデは勇んで出陣し、バアル・ペラツィムで彼らと戦い、みごと打ち破りました。「主のおかげだ。主は押し寄せる洪水のように、敵をひと飲みになさった」とダビデが言ったので、そこはバアル・ペラツィム〔決壊〕と呼ばれるようになったのです。
21 その時、ダビデ軍は、ペリシテ人が置き去りにしていった多くの偶像を運び捨てました。 22 しかしペリシテ人はまたも反撃に出て来て、レファイムの谷間に陣を敷いたのです。 23 ダビデは、どうすべきか再び主に伺いました。答えはこうでした。「正面から攻めないで、敵の背後に回り、バルサム樹の林から出て行きなさい。 24 バルサム樹の林の上から行進の足音が聞こえたら、出陣しなさい。それは、わたしが道を備え、必ず敵を滅ぼすという合図である。」
25 ダビデは命令どおりに行いました。そして、ゲバからゲゼルに至るまでペリシテ人を粉砕したのです。
エルサレムに運ばれた神の箱
6 1-2 このあと、ダビデはえり抜きの兵三万を率いて、ユダのバアラへ出かけました。ケルビム(天使を象徴する像)の上に座す、天地の主なる神の契約の箱を持ち帰るためです。 3 神の箱は真新しい牛車に載せられ、丘の中腹にあるアビナダブの家から運び出されました。御者はアビナダブの子ウザとアフヨでした。 4 アフヨが先導を務め、 5 ダビデをはじめイスラエルの指導者たちがあとに続きました。一行は木の枝を振りかざし、主の前で、竪琴、琴、タンバリン、カスタネット、シンバルなど、ありとあらゆる楽器を鳴らして喜び踊りました。
6 ところが、ナコンの打ち場まで来た時、牛がつまずいたので、ウザはあわてて手を伸ばし、神の箱を手で押さえようとしました。 7 とたんに、主の怒りがウザに向かって燃え上がりました。箱にさわったため、ウザは主に打たれ、箱のそばで息絶えました。 8 この出来事にダビデは憤慨し、そこをペレツ・ウザ〔ウザへの怒り〕と呼びました。今もそう呼ばれています。
9 ダビデはすっかり主を恐れ、「とても主の箱を私の所に持って帰ることはできない」と言って、 10 それをダビデの町へ移すことを中断し、ガテ出身のオベデ・エドムの家に預けることにしました。 11 こうして主の箱は、三か月間オベデ・エドムの家に置かれました。主は彼の家を祝福しました。
12 そのことを聞いたダビデは、大いに祝って、神の箱をオベデ・エドムの家からダビデの町へ運ぶことにしました。 13 主の箱をかつぐ者たちが六歩進んだ時、ダビデは太った牛と子羊をいけにえにささげました。 14 ダビデは、主の前で力の限り踊りました。彼は祭司の服をまとっていました。 15 全イスラエルは歓声を上げ、ラッパを吹き鳴らして、主の箱をダビデの町に運び込みました。
16 しかし、行列が町に入って来るのを窓から眺めていたサウルの娘ミカルは、主の前で跳ねたり踊ったりしているダビデを見て、心の中で彼を軽蔑しました。
17 主の箱は、ダビデが用意しておいた天幕に安置されました。ダビデは主に、焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげました。 18 それから、天地を支配しておられる主の名によって民を祝福し、 19 男にも女にもすべての民にパン一個、ぶどう酒、干しぶどうの菓子一個をふるまいました。それが終わると、みな家に引き揚げ、 20 ダビデも、家族を祝福するために戻って行きました。
ところが、ダビデを迎えに出たミカルは、うんざりした様子で言いました。「今日は、なんとまあごりっぱな王様ぶりでしたこと! 道の真ん中、それも女たちの前で裸におなりになるなんて。」
21 「私は、おまえの父やその一族にまさって、神の民イスラエルの指導者として選んでいただいた主の前で踊ったのだ。その主の前で喜びを表すためなら、たとえ気がおかしくなったと言われてもかまわない。 22 いや、もっと愚か者のように思われてもよい。その女たちは、きっとわかって敬ってくれるだろう。」
23 このミカルは、生涯、子どもが与えられませんでした。
神の約束とダビデの祈り
7 主がついにこの地に平和をもたらし、もはや周囲の国々と戦わなくてもよい日がきました。 2 そうなった時、ダビデは預言者ナタンを呼んで言いました。「見なさい。私はこんなりっぱな家に住んでいるのに、神の箱は天幕に置かれたままだ。」するとナタンは言いました。 3 「どうぞ、お考えのままになさってください。主があなたとともにおられるのですから。」
4 その夜のことです。主はナタンに言われました。 5 「わたしのしもべダビデに、わたしのために家を建てる必要はない、と言いなさい。 6 わたしは神殿には住まない。イスラエル人をエジプトから連れ出した日以来、わたしの家はずっと幕屋(神のための天幕)だった。 7 そのことで、イスラエルの指導者や民を牧する者たちに不平をもらしたことは一度もない。『どうしてりっぱな神殿を建ててくれないのか』と言った覚えもない。
8 さあ、わたしのことばをダビデに告げなさい。『わたしは、牧場で羊を飼う、ただの牧童にすぎなかったあなたを、わたしの民イスラエルの指導者としたのだ。 9 どこへでも、あなたとともに行き、敵を滅ぼした。また、あなたの名声をいっそう高めた。あなたの名は世界中に知れ渡るだろう。 10-11 ここがイスラエル人の母国だ。もう、二度とこの地を離れることはない。ここはわたしの民の地だ。あの士師たちが治めた時代のように、わたしを知らない外国人に圧迫されることもない。もう、戦いを挑んでくる者もいない。あなたの子孫は、代々この地を治めるだろう。 12 あなたが世を去っても、息子の一人を王座につかせ、わたしは王国を強固にしよう。 13 彼が、わたしのために神殿を建てる。王国は永遠に続き、 14 わたしが父となり、彼が息子となる。もし彼が罪を犯せば、外国人を用いて罰する。 15 しかし、先の王のサウルにしたように、愛と恵みを取り去ったりはしない。 16 あなたの家系は、永遠にわたしの王国を治める。』」
17 ナタンはダビデのところへ戻り、主のことばをそのまま伝えました。
18 するとダビデは、幕屋に入って主の前にひざまずき、祈りました。「主なる神よ。私のように取るに足りない者に、どうしてこれほどまでの祝福を下さったのですか。 19 そして今、これまでの祝福に加えて、私の王朝が永遠に続くと約束してくださいました。主の寛大さは、人間の標準をはるかに超えています。 20 このうえ、何を申し上げることができましょう。あなたは私がどのような人間か、すべてご存じです。 21 そして約束のために、なおお心のままに、これらすべてを行ってくださいます。 22 なんと偉大なお方でしょう。あなたのような方は、ほかに知りません。あなたのほかに神はいません。 23 地上のどこを探しても、イスラエルほど祝福を受けた国はありません。あなたは栄光を現すために、ご自分が選んだ民を助け出してくださったのです。エジプトとその神々を滅ぼすために、大いなる奇跡を行われました。 24 あなたはイスラエルを、永遠にご自分の民として選び出し、私たちの神となられたのです。
25 主よ、このしもべとその家への約束を果たしてください。 26 どうか、イスラエルをあなたの民として確立してくださるとき、また、ダビデ王朝をあなたの前に堅く立ててくださるとき、永遠にあなたのお名前があがめられますように。 27 天地の支配者、イスラエルの神よ! 永遠に続く王朝の初代の王として、このしもべを立てるとはっきり言われました。そのため、私は大胆にも、それをお受けするこの祈りをささげることができるのです。 28 あなたこそ神であられ、おことばにうそはありません。私のような者に、これほどすばらしいことを約束してくださった主よ、 29 どうぞ、おことばどおりに事を運んでください。このしもべとその家をいつまでも祝福してください。この王朝が、あなたの前にいつまでも続きますように。主なる神よ、それがお約束なのですから。」
ダビデの勝利
8 そののち、ダビデはペリシテ人の大きな町メテグ・ハアマを奪い取り、彼らの心をくじきました。 2 また、モアブの地を襲った時には、捕虜を列に並ばせたうえ、地面に伏させ、各列の三分の二の者を殺し、残り三分の一を助けました。助かったモアブ人はダビデのしもべとなり、毎年、貢ぎ物を納める者になりました。
3 ダビデはまたユーフラテス川での戦いで、レホブの子、ツォバの王ハダデエゼルの軍を打ち破りました。ハダデエゼルが勢力を挽回しようと攻めて来たからです。 4 ダビデは騎兵千七百と歩兵二万を捕縛し、さらに、百頭だけ残して、戦車用の馬の足の筋をすべて切りました。 5 また、ハダデエゼルの援軍としてダマスコから参戦したシリヤ人二万二千人を打ちました。 6 それでダビデはダマスコに守備隊を置き、シリヤ人はダビデに服従し、毎年、貢ぎ物を納めるようになりました。このように主は、ダビデの行く先々どこででも勝利をもたらしたのです。 7 ダビデはハダデエゼルの家臣たちが持っていた金の盾を奪い、エルサレムに持ち帰りました。 8 また、ハダデエゼルの町ベタフとベロタイから奪った大量の青銅も持ち帰りました。
9 ハマテの王トイは、ダビデがハダデエゼルの軍を破り、大勝利を収めたことを聞くと、 10 その子ヨラムを使者に立て、祝いのことばを伝えました。ハダデエゼルとトイとは敵対関係にあったのです。ヨラムはダビデに金、銀、青銅の器を贈りました。 11-12 ダビデはそれらを全部、シリヤ、モアブ、アモン、ペリシテ人、アマレク、ハダデエゼル王から奪い取った金銀とともに主にささげました。
13 ダビデの名声はいよいよ高まりました。ダビデは帰還すると、塩の谷でエドム人一万八千を打ち滅ぼし、 14 エドム中に兵を駐屯させました。エドム人はみな、イスラエルに貢ぎ物をささげるしもべとなったのです。これもまた主が、行く先々で勝利を与えたことの一つです。
15 ダビデは公正にイスラエルを治め、だれに対しても公平でした。 16 軍の総司令官はツェルヤの子ヨアブ、主の書記官はアヒルデの子ヨシャパテでした。 17 アヒトブの子ツァドクとエブヤタルの子アヒメレクは祭司の長、セラヤは王の秘書官、 18 エホヤダの子ベナヤは護衛隊長、ダビデの子たちは側近を務めました。
ダビデとメフィボシェテ
9 ある日、ダビデは、サウルの家系にまだ生き残っている者がいないか、気になり始めました。もしいれば、ヨナタンとの約束があったので、情けをかけてやりたいと思ったのです。 2 かつてサウル王に仕えたツィバという男のことを耳にすると、さっそく召し出して尋ねました。
「ツィバとはおまえか。」
「そうでございます。」
3 「サウル王の血筋で、だれか生き残った者はいないか。いれば、その者を手厚くもてなし、立てた誓いを果たしたいのだが。」
「ヨナタン様のお子で、足の不自由な方がご存命です。」
4 「その子はどこにいるのだ。」
「今、ロ・デバルのマキルの屋敷においでです。」
5-6 そこでダビデ王は、ヨナタンの息子で、サウルの孫に当たるメフィボシェテを迎えにやりました。メフィボシェテは恐れながらやって来て、ダビデの前にうやうやしくひれ伏しました。 7 そんな彼に、ダビデは優しく声をかけました。「心配には及ばない。来てもらったのはほかでもない、父君ヨナタンとの誓いを果たしたいと思ったのだ。力になりたいのだ。あなたの祖父、サウル王の土地は全部返そう。よかったら、この宮殿で暮らしなさい。」
8 メフィボシェテは王の前に深々と頭をたれ、「死んだ犬も同然の私に、なんというご親切を」と言いました。
9 王はツィバを呼び出し、こう申し渡しました。「よいか、サウル王とその家の物はみな、主君サウルの孫に返した。 10-11 おまえは自分の息子や召使たちとともに、地を耕し、彼の家族のために仕えなさい。しかし、メフィボシェテはここで、私といっしょに暮らす。」
ツィバには、息子が十五人と召使が二十人いました。そこで、「承知しました。ご命令のとおりにします」と答えました。以来、メフィボシェテは、ダビデ王の子ども同様に扱われ、いつも王といっしょに食事をしました。 12 メフィボシェテには、ミカという幼い子がいました。ツィバの家の者はみなメフィボシェテのしもべになりましたが、 13 メフィボシェテはエルサレムに移って、ダビデの宮殿で暮らしました。彼は両足が不自由でした。
アモン人との戦い
10 しばらくして、アモン人の王が死に、その子ハヌンが王位につきました。 2 ダビデは、「彼の父ナハシュには、常々、誠実を尽くしてもらった。私も新しい王に敬意を表そう」と、父親を亡くしたハヌンに悔やみを述べるため、使者を遣わしました。 3 ところがハヌンの家臣たちは、主君にこう取り次ぎました。「この使いの者どもは、亡き父君を敬ってここに来たのではありません。ダビデの魂胆は見えすいております。この町を攻める手始めに、まずスパイを送り込んできたのです。」
4 そこでハヌンは、使者を取り押さえ、ひげを半分そり落とし、服を腰のあたりから切り取り、下半身を裸のままで追い返したのです。 5 それを知ったダビデは、ひげが伸びそろうまでエリコにとどまるよう彼らに命じました。ひげをそり落とされたことを、彼らが深く恥じていたからです。
6 アモンの人々は、このことがダビデを本気で怒らせたことを知ると直ちに、レホブとツォバの地からシリヤ(アラム)の歩兵二万、マアカ王から兵士一千、トブの地から兵士一万二千を、それぞれ雇い入れました。 7-8 ダビデも黙ってはいません。ヨアブをはじめ全イスラエル軍を差し向けて、彼らを攻撃しました。アモン人は町の門の守備に当たり、ツォバとレホブから来たシリヤ人、およびトブとマアカからの傭兵が野に出て戦いました。 9 ヨアブはふた手に分かれて戦うために、精兵をよりすぐって自らの配下に置き、野に出てシリヤ人と戦う備えを固めました。 10 残りの手勢は兄弟アビシャイの指揮に任せて、町の攻撃に向かわせました。 11 ヨアブはアビシャイに言いました。「もしシリヤ人を向こうに回して、われわれだけで戦えないようなら助けに来てくれ。反対に、アモン人がおまえらの手に負えないようなら、こちらが加勢しよう。 12 勇気を出せ! われわれの肩には同胞のいのちと、神の町々の安全がかかっている。がんばるのだ。必ず主のお心のとおりになるのだから。」
13 ヨアブの部隊が攻撃をしかけると、シリヤ軍はくずれ始めました。 14 彼らが敗走するのを見て、アモン人も逃げ出し、町にこもってしまいました。そこでヨアブは攻撃を中止し、エルサレムに引き揚げました。 15-16 シリヤ人は、このままではとてもイスラエル軍にかなわないとわかり、再び兵力の結集を計りました。そしてハダデエゼルは、ユーフラテス川の向こうから呼び集めたシリヤ人を味方に引き入れたのです。彼らの大軍は、ハダデエゼル軍の将軍ショバクに率いられて、ヘラムに着きました。
17 ダビデはこの報告を受けると、自らイスラエル軍を率いてヘラムに向かいました。攻撃をしかけてきたシリヤ軍は、 18 再び敗走するはめになってしまいました。この戦いで、シリヤ軍は戦車兵七百と騎兵四万を失い、将軍ショバクも戦死しました。 19 ハダデエゼルと同盟を結んだ王たちは連合軍の敗北を見てダビデに降伏し、その臣下となりました。これにこりたシリヤ人は、二度とアモン人を助けようとはしませんでした。
ダビデとバテ・シェバ
11 翌年の春になると、再び戦いが始まり、ダビデはヨアブの率いるイスラエル軍を送り込んで、アモン人壊滅を計りました。イスラエル軍はたちまちラバの町を包囲しましたが、ダビデ自身はエルサレムにとどまっていました。
2 ある夕暮れのことです。昼寝から起きたダビデは、宮殿の屋上を散歩していました。見ると、水浴びをしている美しい女性が目に留まりました。 3 さっそく人を送り、その女のことを探らせました。そして、エリアムの娘でウリヤの妻バテ・シェバであることを知ったのです。 4 彼女は、月経後の汚れのきよめをしていたところでした。ダビデは女を召し入れ、忍んで来た彼女と床を共にしたのです。こうして彼女は家に帰りました。 5 それから、自分が妊娠したことを知ると、人をやってダビデに知らせました。
6 さあ、何とかしなければなりません。ダビデは急いでヨアブに伝令を送り、「ヘテ人ウリヤを帰還させよ」と命じました。 7 戦場から戻って来たウリヤに、ダビデはヨアブや兵士の様子、戦況などを尋ねました。 8 それから、「家へ帰ってゆっくり骨休めをしなさい」と勧めたのです。贈り物も持たせました。 9 ところが、ウリヤは自宅に戻らず、王の家来たちとともに、宮殿の門のそばで夜を過ごしたのです。 10 ダビデはそれを知ると、さっそくウリヤを呼んで尋ねました。「いったい、どうしたのだ。長く家から離れていたというのに、なぜ昨夜は妻のもとへ戻らなかったのだ。」
11 「恐れながら王様。神の箱も、ヨアブ様も、その配下の者たちもみな、戦場で野宿しています。それなのに、どうして私だけが家に帰って飲み食いし、妻と寝たりできるでしょう。誓って申し上げます。そんな罪深いことをする気は毛頭ありません。」
12 「よかろう。では今夜もここにとどまるがよい。明日は軍務に戻ってもらう。」
こうして、ウリヤは宮殿から離れませんでした。 13 翌日、ダビデは彼を食事に招き、酒を勧めて酔わせました。しかし、ウリヤは自宅に帰ろうとはせず、その夜もまた、宮殿の門のわきで寝たのです。
14 翌朝、ついにダビデは戦場のヨアブあてに手紙をしたため、それをウリヤに持たせました。 15 その書面で、「ウリヤを激戦地の最前線に送り、彼だけ残して引き揚げて戦死させるようにせよ」と指示したのです。 16 ヨアブはウリヤを、包囲中の町の最前線に送り込みました。町を守っていたのは、敵の中でもえり抜きの兵だと知っていたのです。 17 ウリヤは数人のイスラエル兵士とともに戦死しました。
18 ヨアブは戦況報告をダビデに送る際、 19-21 使いの者にこう言い含めました。「もし王がお怒りになって、『なぜ、そんなに町に近づいたのだ。城壁の上から敵が射かけてくるのを考えに入れなかったのか。アビメレクはテベツで、城壁の上から女が投げ落としたひき臼でいのちを落としたのだ』とおっしゃったなら、『ウリヤも戦死いたしました』と申し上げるがよい。」
22 使者はエルサレムに着くと、ダビデに報告しました。 23 「敵は攻撃をしかけてまいりました。こちらも応戦し、敵を町の門のところまで追い詰めました時、 24 城壁の上から、矢を射かけてまいったのです。そのため、味方の数人が殺され、ヘテ人ウリヤも戦死いたしました。」
25 それを聞いてダビデは言いました。「よし、わかった。ヨアブには、落胆するなと伝えてくれ。剣は両刃の剣だ!今度こそ慎重に攻めて町を占領せよ。成功を祈ると伝えてくれ。」
26 バテ・シェバは夫が戦死したことを知り、喪に服しました。 27 喪が明けると、ダビデは彼女を妻として宮殿に迎え、彼女は男の子をもうけました。しかし、ダビデがしたことは主の御心にかないませんでした。
預言者ナタンの叱責
12 1-2 主は預言者ナタンを遣わし、ダビデにこんな話を聞かせました。「ある町に二人の人がいました。一人は大金持ちで、羊ややぎをたくさん持っていました。 3 もう一人はとても貧乏で、財産といえば、苦労してやっと手に入れた雌の子羊一頭だけでした。彼はまるで自分の娘のように、子羊をしっかり腕に抱いて寝ました。また、彼の子どもたちも子羊を大そうかわいがり、食事のときは自分の皿やコップに口をつけさせるほどでした。 4 そんなある日、金持ちのほうに一人の客がありました。ところが、彼は客をもてなすのに、自分の群れの子羊を使うのを惜しみ、貧しい男の雌の子羊を取り上げ、それを焼いてふるまったのです。」
5 ここまで聞くと、ダビデはかんかんになって怒りだし、「生ける主に誓って言うが、そんなことをする者は死刑だ。 6 償いとして、貧しい男に子羊四頭を返さなければならない。盗んだだけでなく、その男にはあわれみの心というものがないのだから。」
7 すると、ナタンはダビデに言いました。「それはあなたです。あなたこそ、その大金持ちの男なのです! イスラエルの神、主はこう仰せられます。『わたしはあなたをイスラエルの王とし、サウルの迫害から救い出した。 8 そして、サウルの宮殿や妻たち、イスラエルとユダの王国も与えてやったではないか。なお足りないと言うなら、もっともっと多くのものを与えただろう。 9 それなのに、どうしてわたしの律法をないがしろにして、このような恐ろしい罪を犯したのか。あなたはウリヤを殺し、その妻を奪ったのだ。 10 これからは殺人の恐怖が常にあなたの家を脅かす。ウリヤの妻を奪って、わたしを侮ったからだ。
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