Bible in 90 Days
30 それゆえ、イスラエルの神であるわたしは、こう宣言する。レビ族の一門であるあなたの家系が常に祭司となると約束したのは確かだが、今や、それがいつまでも続くと考えたら、大きな間違いである。わたしは、わたしを重んじる者を重んじる。わたしを侮る者は、わたしも軽んじる。 31 あなたの家系は断絶する。これ以上、祭司を務めるには及ばない。家族全員、長寿を全うせずに死ぬのだ。よわいを重ねる者は一人もいない。 32 あなたがたは、わたしが民に与える繁栄をうらやむだろう。あなたの一族は苦難と窮乏に陥る。だれ一人、長生きできない。 33 かろうじて生き残った者も、悲嘆にくれて日を過ごす。子どもたちは、剣によって殺される。 34 わたしのことばに偽りがないことを見せよう。二人の息子ホフニとピネハスは、同じ日に死ぬことになる。
35 代わりに、わたしは一人の忠実な祭司を起こす。彼はわたしに仕え、わたしが告げるとおり正しく行うだろう。その子孫を末代まで祝福し、その一族を王の前に永遠の祭司とする。 36 だから、あなたの子孫はみな、彼に頭を下げ、金と食物を乞うようになる。彼らはこう言ってすがるだろう。『どうか、祭司のどんな仕事でもさせてください。何とか食べていきたいのです』と。」
主に呼ばれたサムエル
3 少年サムエルは、エリのもとで主に仕えていました。そのころ、主のことばが人に臨むことはまれでした。
2-3 ある夜、年老いて目がかすんだエリが寝床に入り、サムエルも契約の箱を安置した宮で寝ていました。 4-5 すると主が、「サムエル、サムエル」と呼びました。サムエルは、「はい。ここにいます」と答えて、「どうしたのだろう」と思って飛び起きると、エリのもとへ走って行き、「サムエルです。何かご用ですか」と尋ねました。エリはけげんな顔で、「呼んだりしていないよ。さあ、戻ってお休み」と答えました。そのとおりにすると、 6 主がまたも、「サムエル」と呼んだのです。サムエルはまた飛び起きて、エリのもとへ駆けつけました。「はい。何かご用でしょうか。」「いいや、呼んだりしていないよ。いいから、帰ってお休み。」
7 サムエルはまだ、主からおことばを頂いたことがなかったのです。 8 ですから三度目に呼ばれた時も、またエリのもとへ駆けつけました。「はい。ご用でしょうか。」この時エリは、主が少年に語ったのだということを悟りました。 9 そこで、彼はサムエルに言い聞かせました。「さあ、もう一度帰ってお休み。今度呼ばれたら、『はい、主よ。しもべは聞いております』と申し上げるのだよ。」サムエルは寝床に引き返しました。
10 すると主が来られて、さっきのように、「サムエル、サムエル」と呼びました。そこでサムエルは、「はい。しもべは聞いております」と申し上げました。 11 主はサムエルに告げました。「わたしは、イスラエルに衝撃的なことを行うつもりだ。 12 エリに言っておいた恐ろしいことが全部、現実となるだろう。 13 エリの家は永遠にさばかれると警告しておいた。それは、神を冒瀆する息子たちの行為を、エリは手をこまぬいて見ていたことの報いである。 14 わたしは誓う。エリと息子の罪は、いけにえやささげ物をいくら積もうと、決して赦されない。」
15 サムエルは朝まで寝床につき、それから、いつものように宮の扉を開けました。サムエルは、主のお告げをエリに話したものか、恐れためらいましたが、 16-17 エリのほうがサムエルを呼んだのです。「サムエルよ。主は何とお告げになったのだ。包み隠さず話しておくれ。小指の先ほどでも隠してはいけないよ。そんなことをしたら、神様がきつく罰してくださるように。」
18 サムエルは、告げられたとおりを残さずエリに打ち明けました。「それは主の御心だよ。どうか、主が最善と思われることがなるように」と、エリは答えました。
19 サムエルは成長し、主が常に彼とともにおられました。人々は、サムエルのことばに真剣に耳を傾けました。 20 こうして、北はダンから南はベエル・シェバに至るイスラエル全土に、サムエルが預言者になったことが知れ渡ったのです。 21 それから主は、再びシロの宮でサムエルに声をかけました。サムエルは主のことばを、イスラエルのすべての民に伝えました。
奪われた契約の箱
4 当時、イスラエルはペリシテ人と戦っていました。イスラエル軍はエベン・エゼルの近くに陣を敷き、ペリシテ軍はアフェクまで進出していました。 2 ペリシテ軍はイスラエル軍を撃破し、イスラエルでは約四千人の犠牲者が出ました。 3 戦いが終わって陣営に戻ったイスラエル軍では、さっそく指導者たちが、なぜ主がイスラエルを痛めつけられたのかを論じ合いました。「契約の箱を、シロから運んで来ようではないか。それをかついで出陣すれば、主は必ず敵の手からお守りくださるだろう。」
4 話がまとまると、ケルビム(天使を象徴する像)の上に座している万軍の主の契約の箱を迎えにやらせました。エリの二人の息子ホフニとピネハスも戦場までついて来ました。
5 契約の箱が着いた時、イスラエル軍から大歓声が上がり、その響きは地をも揺るがすほどでした。 6 ペリシテ人は、「いったい、どうしたんだろう。彼らは何を喜んでいるのだ?」と不思議がりました。そして、神の箱が着いたからだと知らされて、 7 すっかりうろたえ始めました。「イスラエル人が神を呼んだって? 大変なことになったぞ。こんなことは初めてだ。 8 いったいだれが、あの力に満ちたイスラエルの神から、われわれを救い出してくれるのだろう。あの神は、イスラエル人が荒野をさまよっている間、ありとあらゆる災害をもたらしてエジプト人を打った神ではないか。 9 さあ、みんな、今まで以上に気を引きしめて戦おう! さもないと、われわれの奴隷だったやつらに、今度は逆に奴隷にされてしまうぞ。」
10 こうしてペリシテ人は、総力を挙げて戦ったので、またもイスラエルは敗れてしまいました。その日のうちにひどい疫病が発生し、三万人が死に、生存者はほうほうのていでめいめいの天幕へ逃げ帰りました。 11 さらに契約の箱まで奪われ、ホフニとピネハスも殺されたのです。
12 同じ日、一人のベニヤミン人が戦場から駆け戻り、シロにたどり着きました。何か悲しいことがあったのでしょう。男の服は裂け、頭には土をかぶっています。 13 その時、エリは道のそばに設けた席で、戦況報告を今か今かと待っていました。というのも、契約の箱のことが心配だったからです。前線から到着したその使者が、町中に一部始終を知らせると、人々はこぞって泣き叫びました。 14 それを聞いたエリは、「この騒ぎは、いったい何だ」といぶかりました。その時、例の使者がエリのもとへ駆けつけ、すべてを報告したのです。 15 エリは九十八歳で、目も見えなくなっていました。
16 「私はたった今、戦場から戻りました。今日、戦場を発って来たのです。 17 わが軍はさんざん痛めつけられ、幾千もの兵を失いました。ホフニ様とピネハス様も討ち死にされ、契約の箱まで奪われてしまいました。」
18 それを聞いたとたん、エリはその席から門のわきに仰向けに倒れ、首の骨を折って死んでしまいました。年老いていた上に、太っていたからです。エリは四十年間、イスラエルを裁いたことになります。
19 エリの息子の嫁に当たるピネハスの妻は出産間近でしたが、神の箱が奪われ、夫としゅうとが死んだという知らせを聞いて、急に激しい陣痛に襲われました。 20 瀕死の彼女に、世話役の女たちが、「気をお確かに。お産は軽くて、男の子ですよ」と励ましました。しかし、彼女には答える気力もありません。 21-22 しばらくして、力なくつぶやきました。「この子の名前は『イ・カボデ』(「栄光が去る」の意)よ。イスラエルから栄光が去ったから。」神の箱を奪われ、夫としゅうととを亡くしたので、彼女はそう名づけたのです。
5 1-2 ペリシテ人は奪い取った神の箱を、エベン・エゼルの戦場からアシュドデの町へ移し、偶像ダゴンの宮に運び込みました。 3 ところが翌朝、人々が見物に来ると、なんということでしょう。ダゴンが神の箱の前で、うつぶせに倒れているではありませんか。人々はあわてて元どおりに安置しました。 4 ところが、次の日も同じことが起こったのです。ダゴンの像は神の箱の前にうつぶせに倒れ、しかも今度は胴体だけで、頭と両手は切り取られて敷居のあたりに散らばっていました。 5 そういうわけで、ダゴンの祭司も参拝者も、今日に至るまで、アシュドデにあるダゴンの宮の敷居を踏んだことがありません。
6 さらに主は、アシュドデと周囲の村々の住民を腫物で打ち始めました。 7 この出来事に人々は浮足立ちました。「これ以上、イスラエルの神の箱をここに置いてはならない。ダゴンの神もろとも、みんな大変な目に会うぞ。」
8 ペリシテ人の五つの町の指導者が召集され、イスラエルの神の箱をどうしたものか協議しました。その結果、ガテに移しました。 9 ところが移せば移したで、今度はガテの町の人々が、老若を問わず、腫物によって打たれたのです。町はパニックに陥りました。 10 そこで人々は、その箱をエクロンに送りました。しかし神の箱を見たエクロンの人々は、「イスラエルの神の箱を持って来たりして、われわれまで殺す気か」と騒ぎだしたのです。 11 そこで人々はもう一度指導者を召集し、町が全滅しないように神の箱をイスラエルに戻してほしいと懇願しました。腫物の災難が広がり、町はどこもかしこも死の恐怖におびえていたからです。 12 いのちが助かった者もひどい腫物に悩まされ、至る所で悲痛な叫びが聞かれました。
戻って来た契約の箱
6 契約の箱は、まるまる七か月、ペリシテの野に放り出されたままでした。 2 ペリシテ人は祭司や占い師らを呼び寄せて尋ねました。「この箱をどうしたものだろう。これだけをイスラエルに送り返すわけにもいかないし、かといって、どんな贈り物を添えたらよいものやら……。」
3 「もちろん、贈り物は必要です。腫物の災いを収めるには、罪過を償ういけにえを贈るべきです。それでも収まらなければ、原因はほかにあるのです。」
4-5 人々は尋ねました。「罪を償ういけにえとは、どんなものだ?」
彼らは答えました。「腫物をかたどって、金で五つの模型を作り、また、全国五つの町と近隣の村々をくまなく荒らし回ったねずみをかたどって、金で五つの像を作りなさい。これらを贈り、イスラエルの神をほめたたえれば、たぶん、あなたがたや神々の悩みの種も消えるでしょう。 6 かつてのエジプト人やその王のように強情を張ったり、逆らったりしてはいけません。あくまでもイスラエルを去らせまいとしたおかげで、彼らが神からどれほど恐ろしい災害を受けて痛めつけられたか。 7 だから、さあ、新しい荷車を一台仕立て、それに、子牛を産み落としたばかりの雌牛、つまり、まだくびきをつけられたことのない雌牛を二頭つなぎなさい。残された子牛は牛小屋に閉じ込めておくように。 8 箱をその荷車に載せ、ねずみや腫物にかたどった金の像を詰めた箱もいっしょに置きなさい。そして、雌牛の思いのままに引かせるのです。 9 もし国境を過ぎてベテ・シェメシュの方へ向かうなら、この大災害を下したのはイスラエルの神だとはっきりするでしょう。しかし、そちらへは行かずに子牛のいる牛小屋へ戻るなら、あれは偶然の出来事で、イスラエルの神とは全く関係ありません。」
10 人々は言われたとおりにしました。子牛を産んだばかりの二頭の雌牛を車につなぎ、子牛を牛小屋に閉じ込めました。 11 ついで、神の箱と、金で作ったねずみや腫物の模型を詰めた箱とを積み込みました。 12 すると予想どおり、雌牛は鳴きながら、ベテ・シェメシュへの道をまっしぐらに突き進んだのです。ペリシテ人の領主たちは、ベテ・シェメシュの国境までついて行きました。 13 一方、ベテ・シェメシュの人々は、谷間で小麦の刈り入れをしていましたが、神の箱が来るのを見て、喜びのあまり飛び上がりました。
14 荷車はヨシュアという人の畑にさしかかり、大きな岩のそばで止まりました。人々は荷車を割ってたきぎとし、雌牛をほふって、焼き尽くすいけにえを主にささげました。 15 レビ族の何人かが、神の箱とねずみや腫物にかたどった金の像を入れた箱とを車から降ろし、岩の上に置きました。その日、ベテ・シェメシュの人々によって、多くの焼き尽くすいけにえや供え物が神にささげられました。
16 ペリシテ人の五人の領主たちは、しばらくそれを見守ってから、その日のうちにエクロンへ引き返しました。 17 罪過を償ういけにえとして送られた腫物の金の模型は、五つの町、アシュドデ、ガザ、アシュケロン、ガテ、エクロンの領主たちからのささげ物でした。 18 また、金のねずみの像は、五つの町の属領である要塞の町々や地方の村々など、他のすべてのペリシテ人の町からの、イスラエルの神をなだめるささげ物でした。なお、ベテ・シェメシュの大きな岩は、今でもヨシュアの畑にあります。
19 一方、主はベテ・シェメシュの人々七十人を打ちました。彼らが契約の箱の中を見たからです。多くの者が殺されたのを見て、人々は悲しみに打ちひしがれました。 20 彼らは言いました。「聖なる神、主の前にだれがまともに出られよう。神の箱をどこへ移したらよいものか。」
21 そこで、キルヤテ・エアリムの住民に使者を送り、ペリシテ人が神の箱を返して来たことを知らせました。そして、「さあ、早く持って行ってください」と嘆願したのです。
7 キルヤテ・エアリムの人々は来て、丘の中腹にあるアビナダブの家に神の箱を運び込みました。そして、アビナダブの子エルアザルに管理を任せました。 2 その箱は二十年間、そこに置かれたままでした。その間、イスラエルの全家は主に見放されたような悲しみの中にありました。
イスラエルの民を導くサムエル
3 そのような時、サムエルはイスラエルの民に言いました。「心から主のもとに帰りたいなら、外国の神々やアシュタロテの偶像を取り除きなさい。主おひとりに従う決心をしなさい。そうすれば、ペリシテ人の手から救い出していただけます。」
4 そこで人々は、バアルやアシュタロテの偶像を取り壊し、主だけを礼拝するようになりました。
5 それを見て、サムエルは言いました。「全員、ミツパに集合しなさい。あなたがたのために主に祈りましょう。」
6 人々はミツパに集結し、井戸から水をくみ、主の前に注ぐ大がかりな儀式を執り行い、自らの罪を悔いて、その日一日断食しました。こうしてサムエルは、ミツパでイスラエルの民を導き始めたのです。
7 ペリシテ人の指導者たちは、ミツパに大群衆が集結したことを知り、兵を動員して攻め寄せて来ました。ペリシテ軍が近づいて来たと聞いて、イスラエル人は恐れおののきました。 8 「どうぞ、お救いくださるよう、私たちの神、主に嘆願してください。」彼らはサムエルに泣きつきました。
9 そこでサムエルは、乳離れ前の子羊一頭を取り、焼き尽くすいけにえとして主にささげ、イスラエルを助けてくださるよう主に祈りました。そして、祈りは答えられたのです。 10 ちょうどサムエルがいけにえをささげていた時、ペリシテ人が攻撃して来ましたが、主は天から大きな雷鳴をとどろかせて彼らを大混乱に陥らせました。敵はたちまち総くずれになり、イスラエル人はなお、 11 ミツパからベテ・カルまで追い打ちをかけ、彼らを討ちました。
12 この時サムエルは、一つの石をミツパとシェンの間に置き、「ここまで主が私たちをお助けくださった」と言って、エベン・エゼル(「助けの石」の意)と名づけました。 13 こうしてペリシテ人は制圧され、その時代に再びイスラエルを襲撃することはありませんでした。サムエルが生きている間、主がペリシテ人を見張っていたからです。 14 ペリシテ人の占領下にあったエクロンからガテに至るイスラエルの町々は、晴れてイスラエルに返還されました。イスラエル軍が奪い返したのです。当時、イスラエル人とエモリ人とは友好関係にありました。
15 サムエルは生涯、イスラエルを治めました。 16 彼は毎年、最初はベテル、次はギルガル、その次はミツパと巡回しながらイスラエルのために裁きを行いました。どの町でも、その地域で紛争中の問題がサムエルのもとに持ち込まれました。 17 それからサムエルは、生家のあるラマへ戻り、そこでも種々の訴えを裁きました。彼はまた、ラマに主のために祭壇を築きました。
王を求める民
8 やがて、年老いたサムエルは隠退し、イスラエルを裁く仕事を息子たちに譲りました。 2 長男ヨエルと次男アビヤは、ベエル・シェバで人々を裁きました。 3 しかし彼らには、父のような高潔さが欠けていました。金に目がくらんでわいろを取り、公平であるべき裁きを曲げていました。
4 そこでイスラエルの長老たちはラマに集まり、この件でサムエルと話し合いました。 5 彼らは、サムエルの隠退後、息子たちの行状が思わしくなく、物事に支障をきたしていることを話しました。そして、こう願ったのです。「どの国にも王がいます。私たちにも王を立ててください。」
6 サムエルはひどく動揺し、主に祈りました。 7 主の答えはこうでした。「民の言うとおりにしてやるがよい。彼らは、あなたではなく、このわたしを退けたのだ。もう、わたしに治めてもらいたくないのだ。 8 エジプトから連れ出して以来これまで、彼らはいつもわたしを捨て、ほかの神々のあとを追ってばかりいた。まさにそれと同じことを、今またしようとしているのだ。 9 願うとおりにしてやるがよい。ただし、王を立てることがどういうことか、よくよく警告しておきなさい。」
10 サムエルは主のことばを、王を求めるこの民に残らず伝えました。
11 「あなたがたの言うとおり王を立てれば、あなたがたの息子は王の軍隊に取られ、王の戦車の前を走ることになりかねない。 12 中には、戦場に追いやられる者も出るだろう。そして、残りの者はみな、奴隷のように働かされる。王家の領地を耕し、刈り入れにも無報酬で駆り出され、武器や戦車の部品作りにも動員されるのだ。 13 王はあなたがたから娘も取り上げて、料理をこしらえたり、パンを焼いたり、香料を作ったりすることを強いるだろう。 14 それに、ぶどう畑やオリーブ畑のうち、最良の場所を王家の所領に差し出さなければならない。 15 収穫の十分の一は、年貢として王の家来たちに納めなければならない。 16 奴隷や屈強の若者、それに家畜まで、王の私用のために駆り出されるのだ。 17 羊の群れも十分の一を要求されるし、結局、自分たちが奴隷となるわけだ。 18 王を立ててほしいと言ったばっかりに、あとで後悔して嘆いても、主は助けてくださらないだろう。」
19 しかし人々は、警告に耳を傾けようとしませんでした。「かまいませんとも。それでも王が欲しいのです。 20 よその国々と同じになりたいのです。王が私たちを治め、戦いを指揮してくれるでしょう。」
21 サムエルは、人々の反応を主に告げました。 22 主はまたも、「言うとおりにしてやりなさい。王を立ててやるがよい」と答えました。ついにサムエルも承知し、人々をそれぞれ自分の家に帰らせました。
王に選ばれたサウル
9 ベニヤミン人に、キシュという裕福な有力者がいました。その人の父親はアビエル、アビエルの父はツェロル、ツェロルの父はベコラテ、ベコラテの父はアフィアハでした。 2 キシュの息子サウルは国中で一番の美青年で、しかも、だれよりも頭一つ高い長身でした。
3 ある日、キシュのろばがいなくなってしまいました。そこでキシュは、サウルに若者を一人つけて捜しにやったのです。 4 二人はエフライムの山地、シャリシャ地方、シャアリム地域、それからベニヤミンの全地をくまなく捜し回りました。しかし、ついにろばは見つかりません。 5 ツフの地まで捜したあと、サウルは召使の若者に言いました。「もう帰ろう。こうなったら、父はろばより、おれたちのことを心配するよ。」
6 「若だんな様、名案があります。この町には神の人がおいでです。だれからも厚い尊敬を集めている方で、その人の言うことはぴたりと当たるそうです。今から、お訪ねしてみましょう。ろばがどこにいるか、きっと教えてくださいますよ。」
7 「それにしても、みやげの品が何もないな。食べ物も尽きたし、何を贈ったらいいだろう。」
8 「心配はいりません。私が少しばかりお金を持っています。それを差し上げて、ご指示を仰いではいかがでしょう。」
9-11 「よし、そうしよう。」
話がまとまり、二人は預言者の住む町へ向かいました。町へ通じる坂道を上ると、水くみに来た若い娘たちに出会いました。そこで、「この町に先見者がおられますか」と尋ねました。当時、預言者は先見者と呼ばれていたのです。
12-13 「ええ。この道をちょっと行った所にいらっしゃいます。町の門のすぐ内側です。ちょうど旅からお戻りになったところで、人々のために丘の上でいけにえをささげに行こうとしておられます。さあ、お急ぎになったほうがいいわ。せっかくお訪ねになっても、丘へ行かれたあとではしかたありませんもの。あの方がおいでになって、いけにえを祝福されたあとでないと、客人は食事ができませんから。」
14 二人は町へ急ぎ、門にさしかかった時、丘に上ろうとやって来たサムエルに出会いました。
15 主はその前日、サムエルにこう告げていました。 16 「明日の今ごろ、ベニヤミン出身の者をあなたのもとに遣わそう。その者に油を注いで、わたしの民の上に立つ者としなさい。彼はイスラエルをペリシテ人から救い出すだろう。わたしが民を顧みてあわれに思い、その叫びを聞いたからだ。」
17 サムエルがサウルをひと目見た時、「これが、あなたに告げた若者だ。イスラエルを治めるべき者だ」と主の声が聞こえました。 18 サウルはサムエルに近づいて、「先見者のお宅はどちらでしょうか」と尋ねました。
19 「私がそうだよ。さあ、先に立って、あの丘に上りなさい。いっしょに食事をしましょう。明朝、あなたが知りたいことを説き明かしてから、お見送りします。 20 三日前に消えたろばのことは心配いりません。もう見つかっています。今やイスラエルの富はすべて、あなたの手にあるのです。」
21 「何と言われます。私はイスラエルの中でも最も小さいベニヤミン族の者で、私の家は、その中でも取るに足りない存在です。どうしてそのようなことを。」
22 サムエルはサウルと連れの召使を広間に案内し、上座に座らせ、すでに招かれていた三十人のどの客よりも、うやうやしくもてなしました。 23 サムエルは料理長に命じて、取っておきの特上の肉を持って来させ、 24 料理長は命じられたとおり、それをサウルの前に出しました。サムエルは勧めました。「さあ、召し上がってください。これは、この方々を招く前から、あなたのために取っておいたものです。」サウルはサムエルとともに食事をしました。 25 食事を終え、町に戻ると、サムエルはサウルを屋上に案内し、そこで話し合いました。
26-27 翌朝、夜が明けると、サムエルはサウルを呼びにやりました。「起きなさい。出立の時間です。」サウルが起きると、サムエルは町はずれまで送りました。町の城壁まで来ると、サムエルはサウルに、召使を先に行かせるように言いました。そうして、「私は神様から、あなたのことで特別のおことばを託されているのです」と告げました。
10 サムエルはオリーブ油の入ったつぼを取り、サウルの頭に注ぎかけ、口づけしてから言いました。「なぜこんなことをしたか、おわかりですか。主があなたを、ご自身の民イスラエルの王に任命なさったからなのです。 2 今、私と別れたら、あなたはベニヤミン領内のツェルツァフにあるラケルの墓のそばで、二人の人に出会うでしょう。その二人は、ろばがとっくに見つかったと伝えるはずです。また、お父上があなたのことを、『いったい、どこへ行ってしまったんだ』と心配している様子も知らせてくれます。 3 それから、さらにタボルの樫の木のところまで行くと、三人の人に出会うでしょう。神様を礼拝するため、ベテルの祭壇に向かう人たちです。一人は子やぎ三頭を携え、一人はパンを三つ、他の一人はぶどう酒の皮袋一袋を持っているはずです。 4 彼らはあなたにあいさつして、パンを二つくれるので、それを受け取りなさい。 5 そのあとあなたは、ペリシテ人の守備隊がいる、『神の丘』として名高いギブア・エロヒムに行くことになります。そこへ着くと、預言者の一団が、琴、タンバリン、笛、竪琴を鳴らし、預言をしながら丘を降りて来るのに出会うでしょう。
6 その時、神の霊が激しく下り、あなたも共に預言を始めます。すると、全く別人になったように感じ、またそうふるまうに違いありません。 7 その時から、自分の思うとおり、その時その時の状況に応じて、いちばん良いと思われることをすればよいのです。神様が導いてくださるからです。 8 それから、ギルガルへ行き、七日間、私を待ちなさい。焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげるために私も行くから、今後なすべきことは、その時に教えることにしましょう。」
9 サウルはサムエルのもとを辞して進んで行くうち、神から新しい心を与えられました。そしてサムエルの預言はすべて、その日のうちに現実となったのです。
10 サウルと召使が神の丘に着くと、言われたとおり預言者の一団が近づいて来るのに出会いました。神の霊がサウルに下り、彼も預言を始めました。 11 そのことを聞いたサウルの友人たちは驚き、「どうしたんだ。あのサウルが預言者だって?」と言いました。 12 居合わせた近所の人も、「父親もあんなふうだったかな」とささやきました。そういうわけで、「サウルも預言者なのか」ということばが、ことわざのようになったのです。 13 サウルは預言を終えると、丘の祭壇へと上って行きました。
14 彼のおじはサウルと召使いに、「いったい、どこへ行っていたのだ」と聞きました。
「ろばを捜し回っていたのですが、見つからないので、サムエル様のところへ、ろばの居場所を伺いに行ったのです。」
15 「そうだったのか。それで何と?」
16 「ろばはもう見つかったとおっしゃいました。」
しかしサウルは、自分が王として油を注がれたことは黙っていました。
17 さて、サムエルは全イスラエルをミツパに召集し、 18-19 イスラエルの神のことばを伝えました。「わたしはあなたがたをエジプトから連れ出し、エジプト人と、あなたがたに害をもたらすすべての民の手から救い出した。ところが、こうまで心にかけたわたしを退け、『それより、王が欲しい』と叫んでいる。さあ、部族ごとに、氏族ごとに、わたしの前に出なさい。」
20 こうしてサムエルは、部族の指導者を整列させました。聖なるくじで、まずベニヤミン族が選ばれました。 21 ベニヤミン族を、氏族ごとに主の前に出させたところ、マテリの氏族が選ばれました。こうしてついに、キシュの子サウルをくじで選び出したのです。ところが、どこを捜してもサウルの姿は見当たりません。 22 人々が、「いったいサウルは、どこへ行ったのでしょう。ここに来ているのですか」と尋ねると主は、「見なさい。彼は荷物の陰に隠れている」と答えました。 23 それで人々は彼を見つけると、そこから連れて来ました。サウルが立つと、他のだれよりも肩から上だけ高いのが目立ちました。
24 サムエルはすべての民の前で宣言しました。「この人こそ、主が王としてお選びくださった人だ。イスラエル中で、この人の右に出る者はいない!」
「王様、ばんざーいっ!」
民の間から喜びの叫びが上がりました。
25 サムエルは全国民に、王の権利と義務について語りました。さらに、それを文書にして、主の前の特別な場所に納めました。こののち、人々をそれぞれ自分の家に帰したのです。 26 サウルもまた、ギブアの自宅に戻りました。この時、神によって心動かされた勇士たちは、彼について行きました。 27 ところが、中には飲んだくれやならず者もいて、「こんな男がおれたちを守れるものか」と言って彼を侮り、贈り物すら持っていこうとしませんでした。しかし、サウルは何も言いませんでした。
王となったサウル
11 さて、アモン人ナハシュが軍を率いて、イスラエル人の町ヤベシュ・ギルアデに迫りました。ヤベシュの人々は講和を求め、「どうか、お助けください。あなたがたにお仕えしますから」とすがりました。 2 ナハシュの答えは情け容赦のないものでした。「よし、わかった。ただし、一つ条件がある。全イスラエルへの見せしめに、おまえたち一人一人の右目をえぐり取らせてもらおう。」
3 なんということでしょう。ヤベシュの長老たちは困りました。「七日間の猶予を下さい。その間に、だれも助けに来てくれなければ、お申し出に従うまでです。」
4 使者がサウルの住むギブアの町に駆けつけ、苦境を訴えると、だれもが声を上げて泣きだしました。
5 そこへ、畑を耕しに行っていたサウルが戻って来て、「いったい、どうしたのだ。なぜ、みんな泣いているのか」と尋ねました。人々はヤベシュからの知らせを伝えました。 6 その時、神の霊が激しくサウルに下ったのです。サウルは満身を怒りに震わせ、 7 二頭の雄牛を捕まえるや、それを切り裂き、使者に託してイスラエル中に送りました。そして、「サウルとサムエルに従って戦うことを拒む者の雄牛は、このようにされる」と言い送ったのです。主が人々にサウルの怒りを恐れさせたのか、みな、いっせいに集まって来ました。 8 ベゼクでその数を調べると、イスラエルから三十万人、さらにユダから三万人が加わったことがわかりました。
9 そこでサウルは、使者をヤベシュ・ギルアデに送り帰し、「明日の昼過ぎまでに助けに行く」と告げさせたのです。この知らせに、どれほど町中が喜びにわき立ったことでしょう。 10 ヤベシュの人々は、敵にこう通告しました。「降伏いたします。明日、あなたがたのところへまいりますから、どうぞお気のすむようになさってください。」
11 翌朝早く、サウルはヤベシュ・ギルアデに駆けつけ、全軍を三隊に分けてアモン人を急襲し、午前中にほとんど全員を打ち殺してしまいました。残った者たちも散り散りになり、二人の者が共に残ることさえありませんでした。
12 その時、人々はサムエルに言いました。「サウルなどわれわれの王ではないと言った者たちはどこでしょうか。引っぱり出してください。息の根を止めてやります。」
13 しかし、サウルは答えました。「今日はだめだ。この日、主はイスラエルを救ってくださったのだから、だれをも殺してはならない。」
14 続いて、サムエルが呼びかけました。「さあ、ギルガルへ行こう。サウルがわれわれの王であることを、改めて確認するのだ。」
15 人々はこぞってギルガルへ行き、主の前でサウルを王として立てました。それから、主に和解のいけにえをささげ、共に喜び合ったのです。
サムエルの別れのことば
12 サムエルは、再び民に語りかけました。「さあ、見るがいい。あなたがたの願いどおり王を立てた。 2 私は自分の息子よりも、この人を選んだ。私は若いころから公の務めについてきたが、今や白髪頭の老人になった。 3 今、私は主の前に、そして主が油を注がれた(神にきよめ分けられ、任命を受けた)王の前に立っている。さあ、言い分があるなら言ってくれ。私がだれかの牛やろばを盗んだりしただろうか。みんなをだましたり、苦しめたりしたことがあるか。わいろを取ったことがあるか。もしそんな事実があったら、言ってほしい。何か間違いを犯したことがあるなら償いたいのだ。」
4 「とんでもない。あなたからだまし取られたり、苦しめられたりした覚えなど、これっぽちもありません。それに、あなたは、わいろなどとは全く無縁な方です。」
5 「では、私があなたがたから非難される点が何一つないことについては、主ご自身と、主が油を注がれた王が証人ということでよいか。」
「はい、そのとおりです」と彼らは答えました。
6 サムエルは続けました。「モーセとアロンをお選びになったのは、主であった。主があなたがたの先祖をエジプトから導き出してくださったのだ。 7 さあ、主の前に静かに立ちなさい。先祖たちの時代からこのかた、主があなたがたに対してどれほどすばらしいみわざを行ってくださったか思い出させよう。 8 かつて、エジプトに抑留されていたイスラエル人が叫び求めた時、主はモーセとアロンを遣わし、彼らをこの地へと導いてくださった。 9 ところが、だれもみな、すぐに彼らの神、主を忘れてしまった。それで、ハツォル王の率いる軍の将シセラや、ペリシテ人、モアブの王の手に落ちるのを主は放っておかれた。 10 すると人々はもう一度、主に叫び求めた。主を捨て、バアルやアシュタロテなどの偶像を拝んだ罪も告白した。そして、『もし敵の手から救い出してくださるなら、あなただけを礼拝します』と泣きすがった。 11 それで主は、ギデオン(エルバアル)、バラク、エフタ、サムエルを遣わして敵の手から救い出し、安らかな生活を取り戻させてくださったのだ。 12 ところが、あなたがたは、アモン人の王ナハシュを怖がって、自分たちを治める王が欲しいと言いだした。あなたがたの神である主こそが、あなたがたの王であったのに。主はこれまでもずっと、あなたがたを支配してこられたのだ。 13 さあ、よく見なさい。この人が、あなたがたの選んだ王だ。 14 あなたがたが主を恐れかしこみ、主の命令を聞き、反抗的な態度を捨て、そして王とともに主に仕える道を歩むなら、すべてうまくいくだろう。 15 しかし、もし主の命令に逆らい、主に聞き従うことを拒むなら、主のさばきが下り、先祖たちの二の舞になるだろう。 16 さあ、主のみわざを見なさい。 17 だれでも知っているように、小麦を刈り取るこの時期には雨が降らない。しかし、私は主に祈って、今日、雷と雨を送っていただく。王を欲しがるのがどれほど愚かなことだったか思い知るだろう。」
18 そうして、サムエルが呼び求めると、主は雷と雨をもたらしたので、人々はみな驚き、震え上がりました。 19 彼らはサムエルにとりすがりました。「ああ、いのちだけはお助けくださいと祈ってください。私たちは王が欲しいと言って、今までの罪にまた罪を重ねてしまいました。」
20 サムエルは彼らをなだめました。「怖がることはない。過ちを犯したのは事実だが、問題はこれからだ。心を尽くして主を礼拝し、何があっても背いてはならない。 21 ほかの神々が助けてくれるわけがないのだから。 22 主は、ご自分の民を捨てて、その偉大なお名前を汚すようなことはなさらない。主はあなたがたを、特別な民として選んでくださったのではないか。そうすることが主のご意志だったのだ。 23 私も、あなたがたのために祈るのをやめて、主に罪を犯すことなどしない。これからも、良いこと正しいことを教え続けよう。 24 主を信頼し、心から礼拝をささげなさい。主があなたがたに行ったすばらしいわざを、すべて心に留めなさい。 25 しかし、もしこのまま罪を犯し続けるなら、王とともに滅ぼされることになるだろう。」
サウルの失敗
13 サウルが王位についてから、一年が過ぎました。サウルは治世の二年目に、 2 三千人の精兵を選びました。このうち二千人はサウルとともにミクマスとベテルの山地にこもり、残りの千人はサウルの息子ヨナタンに統率されて、ベニヤミン領のギブアにとどまりました。残りの者は自宅待機となりました。 3-4 そののちヨナタンは、ゲバに駐屯していたペリシテ人の守備隊を攻略し、そのニュースがたちまちペリシテの領土中に広まりました。サウルは全イスラエルに戦闘準備の指令を出し、ペリシテ人の守備隊を破ったことで、ペリシテ人の大きな反発を買った事情を訴えました。イスラエルの全軍が再びギルガルに召集され、 5 ペリシテ側も兵力を増強し、戦車三千、騎兵六千、それに浜辺の砂のようにひしめくほどの兵士たちを集結させました。そして、ベテ・アベンの東にあるミクマスに陣を敷いたのです。
6 イスラエル人は敵のおびただしい軍勢を見るなり、すっかりおじけづいてしまい、先を争ってほら穴や茂みの中、岩の裂け目、それに地下の墓所や水ためにまでも隠れようとしました。 7 中には、ヨルダン川を渡って、ガドやギルアデ地方まで逃げ延びようとする者も出ました。その間、サウルはギルガルにとどまっていましたが、従者たちは、どうなることかと恐怖に震えていました。
8 サムエルはサウルに、自分が行くまで七日間待つように言ってありました。ところが、七日たってもサムエルは現れません。サウル軍は急に動揺し始め、統制が取れなくなりそうな形勢です。 9 困ったサウルは、祭司ではないのに、自分で焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげようと決心しました。 10 こうして、サウルがちょうどいけにえをささげた直後、サムエルが姿を現したのです。サウルが迎えに出て祝福を受けようとすると、 11 サムエルは、「あなたはなんということをしたのか」と問い詰めました。
サウルは答えました。「兵士たちは逃げ出そうとしておりましたし、あなたも約束どおりおいでになりません。ペリシテ人は、今にも飛びかからんばかりにミクマスで構えています。 12 敵はすぐにも進撃してくるでしょう。なのに、まだ神様に助けを請うていません。とてもあなたを待ちきれませんでした。それでやむなく、自分でいけにえをささげてしまったのです。」
13 「なんと愚かなことを!」サムエルは思わず叫びました。「よくもあなたの神、主の命令を踏みにじってくれた。主はあなたの家系を、子々孫々まで、永遠にイスラエルの王に定めておられたのに。 14 だが、もはやあなたの王家も終わりだ。主が望んでおられるのは、ご自分に従う者なのだ。すでに、お心にかなう人を見つけて、王としてお立てになっている。あなたが命令に背いたからだ。」
15 サムエルはギルガルを発って、ベニヤミン領内にあるギブアに上って行きました。
一方、サウルは自分の指揮下にある兵を数えてみました。すると、たった六百人しか残っていませんでした。 16 サウルとヨナタンとこれらの兵は、ベニヤミンのゲバに駐屯し、ペリシテ人はミクマスに腰をすえていました。 17 やがて三つの攻撃部隊が、ペリシテ人の陣営からくり出されました。一隊はシュアルの地にあるオフラに向かい、 18 もう一隊はベテ・ホロンに向かい、第三の隊は荒野に接するツェボイムの谷を見下ろす境界へと進軍したのです。
19 当時、イスラエルには鍛冶屋がありませんでした。イスラエル人が剣や槍を作ることを恐れたペリシテ人が、鍛冶屋の存在を許さなかったからです。 20 そこで、イスラエル人がすき、くわ、斧、かまなどを研ぎたい場合は、ペリシテ人の鍛冶屋を訪ねなければなりませんでした。 21 すきやくわの研ぎ料、斧や突き棒の修理料は一ピム(一シェケル=銀十一・四グラムの三分の二)でした。 22 この時、イスラエル兵の中で剣や槍を持っているのはサウルとヨナタンだけでした。 23 そうこうするうち、ミクマスへ通じる山道は、ペリシテ軍の先陣によって厳重に封鎖されました。
ヨナタンの活躍
14 一日二日が過ぎたころ、サウルの子の王子ヨナタンは、側近の若者に言いました。「さあ、ついて来い。谷を渡って、ペリシテ人の陣営に乗り込もう。」
このことは、父サウルには知らせていませんでした。 2 サウルと六百人の兵は、ギブア郊外のミグロンのざくろの木付近に陣を敷いていました。 3 その中には祭司アヒヤもいました。アヒヤはイ・カボデの兄弟アヒトブの子で、アヒトブはシロで祭司を務めたエリの子ピネハスの孫に当たります。ヨナタンが出かけたことは、だれ一人知りませんでした。
4 ペリシテ人の陣地へ行くには、二つの切り立った岩の間の狭い道を通らなければなりませんでした。二つの岩は、ボツェツとセネと名づけられていました。 5 北側の岩はミクマスに面し、南側の岩はゲバに面していました。
6 ヨナタンは従者に言いました。「さあ、あの主を知らない者たちを攻めよう。主が奇跡を行ってくださるに違いない。主を知らない兵の力など、どれほど大きかろうと、主には物の数ではない。」
7 若い従者は言いました。「そうですとも。あなたの思いどおりにお進みください。お供します。」
8 「そうか。では、こうしよう。 9 われわれが敵の目に留まったとき、『じっとしていろ。動くと殺すぞ!』と言われたら、そこに立ち止まって彼らを待とう。 10 もし『さあ、来い!』と言われたら、そのとおりにするのだ。それこそ、彼らを打ち負かしてくださる神のしるしだ。」
11 ペリシテ人は近づいて来る二人の姿を見かけると、「見ろ! イスラエル人が穴からはい出て来るぞ!」と叫びました。 12 そしてヨナタンに、「さあ、ここまで来い。痛い目に会わせてやろう!」と大声で呼びかけるではありませんか。ヨナタンはそばの若者に叫びました。「さあ、あとから登って来い。主がわれわれイスラエルを助けて、勝利をもたらしてくださるぞ!」
13 二人は崖をよじ登り、ペリシテ人がしりごみするところを打ちかかり、ヨナタンと若者は右に左に切り倒しました。 14 この時に殺されたのは約二十人で、一くびきの牛が半日で耕す広さの場所に死体が散乱しました。 15 不意を突かれて、ペリシテ軍の全陣営、とりわけ先陣の部隊はパニックに陥りました。大地震にでも見舞われたように、恐怖におののきました。
16 ギブアにいたサウルの陣営では、見張りの番兵が思いがけない光景を目にしていました。ペリシテ人の大軍が、うろたえて右往左往し始めたのです。 17 サウルは、「だれかわれわれの陣営から消えた者がいるか調べろ」と命じました。調べると、ヨナタンと側近の若者がいません。 18 サウルはアヒヤに、「神の箱を持って来なさい」と叫びました。そのころ、神の箱はイスラエル人の間にあったのです。 19 サウルが祭司と話している間に、ペリシテ人の陣営の騒ぎは、ますます大きくなっていきました。
サウルは祭司に、「もうよい」と言って、 20 六百人の兵とともに大急ぎで戦場に駆けつけました。すると、ペリシテ人が同士打ちをしており、どこもかしこも収拾がつかない有様です。 21 それまでペリシテ軍に徴兵されていたヘブル人も、寝返ってイスラエル側につきました。 22 ついには、山地に隠れていた者まで、ペリシテ人が逃げ出すのを見て、追撃に加わりました。 23 こうして、この日、主はイスラエルを救い、戦闘はベテ・アベンに場所を移していきました。
24-25 この日、サウルは民に命じていました。「夕方まで、つまり、私が完全に敵に復讐するまで、食べ物を何も口にするな。もし食べる者がいれば、のろわれる。」それで、森に入ると地面にみつばちの巣があったのに兵士たちは目もくれず、まる一日、何も食べていませんでした。 26 サウルののろいを恐れていたからです。 27 ところが、ヨナタンは父の命令を知りません。手にしていた杖をみつばちの巣のみつにちょっと浸してなめてみました。すると、体中に力がわいてきたのです。 28 その時、ヨナタンにだれかが耳打ちしました。「お父上は、今日、食物を口にする者にのろいをおかけになったのですよ。ですから、みんなへとへとに疲れているのです。」
29 「なんということだ!」ヨナタンは思わず叫びました。「そんな命令は、みんなを苦しめるだけだ。このみつをちょっとなめただけでも、私は元気になった。 30 もしわが軍が、敵陣で見つけた食糧を自由に食べてよいことになっていたら、もっと多くのペリシテ人を打ち殺せたろうに。」
31 一日中すきっ腹をかかえたまま、彼らは、ミクマスからアヤロンにかけてペリシテ人を追いかけ、彼らを討ったのです。そのため、みな、ぐったりしていました。 32 夕方になると、人々は戦利品に飛びつき、羊、牛、子牛などをほふり、血のしたたる肉に食らいつきました。 33 だれかがこの様子をサウルに告げ、血が残ったままの肉を食べて主に罪を犯していると非難しました。
「けしからん!」サウルは腹を立て、こう言い渡しました。「大きな石をここに転がして来なさい。 34 そして、隊中にふれ回り、牛や羊を連れて来て殺し、血を絞り出すよう命じるのだ。血が残ったままの肉を食べて、主に罪を犯してはならない。」
人々は言われたとおりにしました。 35 そしてサウルは、主のために祭壇を築いたのです。これは彼が築いた最初の祭壇でした。
36 それからサウルは、「さあ、夜通しペリシテ人を追い、最後の一人まで打ってしまおうではないか」と気勢を上げました。従者たちは、「それはいい。お考えどおりにしましょう」と答えました。ところが祭司は、「まず、神様にお伺いを立てましょう」と言いました。 37 そこでサウルは、「ペリシテ人を追うべきでしょうか。敵を打ち負かすのをお助けいただけますか」と、神に答えを請いました。しかし、夜が明けても何の返事もありません。 38 そこでサウルは兵士の長を集め、「何かまずいことがあったのだ。今日、どんな罪が犯されたのか、はっきりさせる必要がある。 39 イスラエルを救ってくださった主の御名にかけて誓う。罪を犯した者は、たとえわが子ヨナタンであろうと死ななければならない。」
しかし、だれも真相を語ろうとしませんでした。 40 そこでサウルが、「ヨナタンと私はこちらに、おまえたちはみなあちらに、両側に分かれて立ってみよう」と提案し、一同はそれに応じました。
41 サウルは祈りました。「ああ、イスラエルの神、主よ。なぜ、私の問いにお答えいただけなかったのでしょう。何か責められるべき点があるのでしょうか。ヨナタンか私に罪があるのですか。それとも、ほかの者が悪いのですか。主よ、罪を犯したのはだれかはっきりお示しください。」
それから聖なるくじを引くと、ヨナタンとサウルの側に当たりました。 42 サウルは続けて、「私とヨナタンとでくじを引こう」と言いました。その結果、くじはヨナタンに当たりました。
43 サウルはヨナタンに詰め寄りました。「何をしたのか、私に言いなさい。」
「みつをなめたのです。杖の先につけて、ほんの少しばかり。でも、私は死ななければなりません。」
44 「そうだ、ヨナタン。おまえは死ななければならない。もしそうでなければ、神が私を死ぬほどに罰してくださるように。」
45 すると、兵士たちが反発しました。「今日イスラエルを救ったのはヨナタン様です。その方のいのちが奪われるなんて、あってはなりません! 主にかけて誓います。あの方の髪の毛一本も失われてはなりません。今日の目ざましい働きは、神様に用いられている証拠ではありませんか。」
こうして、彼らはヨナタンを救ったのです。 46 そののち、サウルは追撃していた部隊を呼び戻したので、ペリシテ人は引き揚げて行きました。
47 サウルはイスラエルの王位についてからこのかた、周囲のあらゆる敵、モアブ、アモン人、エドム、ツォバの王たちからペリシテ人に至るまで、派兵して戦っていました。そして、向かうところどこでも勝利を収めました。 48 彼は大きな力を振るい、アマレク人を討ちました。サウルのおかげで、イスラエルはすべての侵略者の手から救われました。
49 さて、サウルには、ヨナタン、イシュビ、マルキ・シュアという三人の息子と、メラブ、ミカルという二人の娘がいました。 50-51 妻はアヒノアムといい、アヒマアツの娘でした。軍の司令官はサウルのおじネルの息子で、いとこに当たるアブネルでした。アブネルの父ネルとサウルの父キシュとは兄弟で、二人ともアビエルの子です。
52 イスラエル人はサウルの在世中、絶えずペリシテ人と戦い続けました。サウルは勇敢で屈強な若者を見つけると、彼らをみな軍隊に徴用しました。
王位から退けられたサウル
15 ある日、サムエルはサウルに言いました。「私はあなたをイスラエルの王にした。主がそうせよと言われたからだ。今、確かにあなたは主に従っている。 2 それで、主はあなたにこう命じておられる。『アマレク人に罰を下す。イスラエル人がエジプトを脱出した時、彼らが領地内を通るのを拒否したからだ。 3 さあ、攻め上ってアマレク人を一人残らず打ちなさい。男も女も、子どもも赤ん坊も、牛も羊も、らくだもろばも徹底的に打つのだ。』」
4 サウルは兵をテライムに集結させました。兵は二十万で、それにユダの兵一万が加わりました。 5 そしてアマレク人の町へ行き、谷に陣を敷きました。 6 サウルはケニ人に使者を立て、アマレク人と運命を共にしたくなければ彼らの中から出て行くように警告しました。イスラエル人がエジプトから脱出した時、ケニ人が親切にしてくれたからです。ケニ人はさっそく荷物をまとめ、アマレク人の中から出て行きました。 7 そののちサウルは、ハビラからエジプトの東方、シュルに至る道でアマレク人を打ち、 8 王アガグを捕虜にしたほかは、一人残らず殺しました。 9 しかし、サウルと兵は、羊や牛の最上のもの、子羊のまるまる太ったものを殺さずに取り分けておきました。それらがとても気に入ったからです。そして、あまり値打ちのない、質の悪いものだけを殺したのです。
10 その時、主はサムエルに語りかけました。 11 「わたしはサウルを王に立てたことを悔いる。二度までもわたしに逆らった。」サムエルはそのことばに激しく動揺し、夜通し主に叫び続けました。
12 翌朝早く、彼がサウルに会いに出かけようとした時、「サウル王はカルメル山へ行って自分のために記念碑を建て、それからギルガルへ引き返した」と告げる者がありました。 13 ようやくサムエルが捜し当てると、サウルは上機嫌であいさつしてきました。「これは、ようこそ。ご安心ください。主のご命令をすべて守りました。」
14 「なに? では、この聞こえてくる、メエメエ、モウモウという鳴き声はいったい何だ。」
15 「特上の羊や牛を殺してしまうのはもったいないと考え、あなたの神、主にささげるために連れて来たのです。ほかのものはいっさい殺しました。」
16 「黙りなさい! 昨夜、主が何とおっしゃったか教えよう。」
「何とおっしゃったのですか?」
17 「サウル。自分では取るに足りない者でいるつもりかもしれないが、いやしくもあなたは、イスラエルの王に任命された者ではないか。 18 主に何と命じられたか、忘れてはいないだろう。『罪人アマレクのすべてを滅ぼし尽くせ』と言われたのではなかったか。 19 それなのに、どうして従わなかったのだ。なぜ戦利品に飛びついて、主の命令に背いたのだ。」
20 「私としては、お従いしたつもりです。命令どおりにいたしました。アガグ王は連れて来ましたが、ほかのアマレク人は全員殺しました。 21 たまたまいた羊や牛や戦利品の最上のものを取り分け、主にいけにえとしてささげようとしたのは、民が言いだしたことです。」
22 サムエルは言いました。「主は、いくら焼き尽くすいけにえやその他のいけにえをささげたとしても、あなたが従順でなければ、少しもお喜びにはならない。従順は、いけにえよりはるかに尊いのだ。主は、あなたが雄羊の脂肪をささげるよりも、主の御声に耳を傾けるほうをお喜びになる。 23 反逆は占いの罪に等しく、不従順は偶像礼拝に等しい罪なのだ。もはや主のおことばを無視したからには、主もあなたを王位から退けることだろう。」
24 「ああ、私は罪を犯しました。言われるとおり、あなたの指図にも主の命令にも背きました。民を恐れて、言いなりになったのです。 25 どうか、この罪をお赦しください。主を礼拝するため、いっしょに行ってください。」
26 「今さら、むだなことだ! 主のご命令を退けたあなたを、主もイスラエルの王位から退けられたのだ。」
27 こう答えて引き返そうとするサムエルにとりすがったサウルは、そのはずみでサムエルの上着を破ってしまいました。 28 サムエルはサウルに言いました。「よく見るがよい。主は、今日、あなたからイスラエルの王国を取り上げて、さらにすぐれた人物にお渡しになった。 29 イスラエルの栄光そのものであるお方のことばに偽りはなく、心変わりもありえない。」
30 それでもサウルはとりすがりました。「私が間違っていました。しかし、どうか今、民と指導者たちとの前で私の面目をつぶさないでください。どうか、いっしょに行って、あなたの主を礼拝させてください。」
31 あまりの熱心さにサムエルもついに折れました。 32 そののち、サムエルはサウルに、「アガグ王を連れて来なさい」と命じました。アガグはいそいそとサムエルの前に出て来ました。「最悪の事態は免れた。きっと助けてもらえるだろう」と思ったのです。 33 しかし、サムエルはきびしく言い渡しました。「おまえの剣は実に多くの母親から子どもを奪った。今度はおまえの母親が子を失う番だ。」そうしてサムエルはギルガルで、主の前にアガグを切り殺しました。
34 そののち、サムエルはラマの自宅へ戻り、サウルもギブアに引き返しました。 35 二人は、もう二度と顔を合わせることがありませんでした。しかし、サムエルはサウルのことで悲しみ、主もまた、サウルをイスラエルの王としたことを悔やみました。
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