Previous Prev Day Next DayNext

Bible in 90 Days

An intensive Bible reading plan that walks through the entire Bible in 90 days.
Duration: 88 days
Japanese Living Bible (JLB)
Version
ルカの福音書 10:1-20:19

伝道の心がまえ

10 さてイエスは、ほかに七十人の弟子を選び、これから訪問する予定の町や村に、二人一組で、先に派遣しました。 その時、イエスは彼らに、次のような注意をお与えになりました。「収穫はたくさんあるのに、働く人があまりにも少ないのです。ですから、収穫の責任者である主に、もっと大ぜいの働き手を送ってくださるように願いなさい。 さあ、出かけなさい。だが、これだけは忘れないように。あなたがたを派遣するのは、まるで羊を狼の群れの中に送るようなものです。 お金も旅行袋も、はき替えのくつも持たないで行きなさい。途中、道草を食ってはいけません。 どんな家に入っても、神の祝福があるようにと祈りなさい。 その家が祝福を受けるに値するようなら、祝福はとどまるし、そうでなければ、あなたがたのところに返って来ます。 一つの村に入ったら、あっちこっち家々を渡り歩いてはいけません。同じ家に泊まり、出される物をいただきなさい。ていねいなもてなしを遠慮することはありません。働く者が報酬を受けるのは当然です。 8-9 喜んで迎えてくれる町では、次のことを守りなさい。出された物は何でも食べることと、病人をいやし、『神の国が、すぐそこまで来ている』と宣言すること、この二つです。 10 しかし、歓迎してくれないような町では、大通りに出て、こう言いなさい。 11 『あなたがたは必ず滅びます。これがそのしるしです。この町のちりは、私の足から払い落として行きます。ただ、神の国がすぐそこまで来ていることは知っておきなさい。』 12 よく言っておきますが、さばきの日には、あの邪悪な町ソドム(悪行のため、神に滅ぼされた町)のほうが、その町より罰が軽いのです。

13 ああコラジンよ。ああベツサイダの町よ。どんな恐ろしいことが待ち受けていることか。わたしがあなたがたにしたような奇跡を、ツロとシドン(悪行のため、神に滅ぼされた町)でしていたら、そこの人々はとうの昔に荒布をまとい、頭に灰をかぶって嘆き悲しみ、罪を悔い改めたことでしょう。 14 さばきの日には、ツロとシドンのほうが、あなたがたより罰が軽いのです。 15 ああカペナウムの町よ。あなたがたはどうでしょう。天に上げられるとうぬぼれている者たち。あなたがたは地獄に突き落とされるのです。」

16 イエスは、さらに続けて言われました。「あなたがたを受け入れる人は、わたしを受け入れるのです。あなたがたを受け入れない人は、わたしを受け入れないばかりか、わたしを遣わされた神をも受け入れないのです。」

17 その後、七十人の弟子たちは喜び勇んで旅から帰って来て、イエスに報告しました。「あなたのお名前を使うと、悪霊どもでさえ言うことを聞きました。」 18 「そうです。まるでいなずまのように、サタンが天から落ちるのをわたしは見ました。 19 あなたがたには、敵のあらゆる力に打ち勝ち、蛇やさそりを踏みつぶす権威を与えてあります。だから、あなたがたに危害を加えるものなど、一つもないのです。 20 しかし、悪霊どもが言うことを聞くからといって、喜んではいけません。ただ、あなたがたの名前が天国の市民として記されていることを喜びなさい。」

21 この時、イエスの心は、聖霊が与えてくださる喜びであふれました。「父よ。天地の主であるあなたをほめたたえます。これらのことを賢い者や知恵ある者たちには隠して、小さい子どものように、神を信じきっている者に示してくださいました。ほんとうにありがとうございます。これが、あなたのお心にかなったことでした。 22 すべてのことで、わたしはあなたに任せられた役割を務めます。あなただけが子であるわたしの、ほんとうの姿をご存じですし、あなたのことをほんとうに知っているのは、子のわたしと、あなたを知らせようとわたしが選んだ者たちだけなのです。」 23 それから弟子たちのほうを向いて、そっと言われました。「あなたがたの目はなんと幸せなことでしょうか。この上なくすばらしいものを見ているのですから。 24 多くの預言者や王たちが、あなたがたの見聞きしたことを、見たい、聞きたいと、どれほど願ったか知れませんが、その願いはかなえられなかったのです。」

親切なサマリヤ人

25 ある日、律法の専門家がやって来て、イエスを試そうとしました。「先生。お聞きしたいのですが、永遠のいのちを受けるには、何をしたらよろしいでしょうか。」 26 「モーセの律法には、何と書いてありますか。」 27 「『心を尽くし、たましいを尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい』申命6・5、それに、『自分自身を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』レビ19・18とありますが。」 28 「そう、そのとおりにすればいいのです。そうすれば、永遠のいのちを得られます。」 29 しかし律法の専門家は、自分がある人々を愛していないことを正当化しようと、「隣人とはだれのことですか?」と聞き返しました。

30 イエスは直接答える代わりに、たとえを話されました。「エルサレムからエリコへ旅をしていたユダヤ人が、強盗に襲われました。強盗どもは、身ぐるみはぎ取り、あり金全部を奪うと、その人を殴ったり、蹴ったりして半殺しにし、道ばたに放り出して逃げて行きました。 31 ちょうどそこへ、ユダヤの祭司が通りかかりました。ふと見ると、旅人が倒れています。でも、めんどうに巻き込まれたくなかったので、道の反対側へ回り、何くわぬ顔で通り過ぎてしまいました。 32 しばらくすると、今度はレビ人(神殿で奉仕する人)が通りかかりましたが、彼も、倒れている旅人を横目でちらりとながめただけで行ってしまいました。 33 ところが、常日頃ユダヤ人に軽蔑されていたサマリヤ人がたまたま通りかかり、旅人を見つけました。その人をかわいそうに思ったサマリヤ人は、 34 急いでそばに近づいて、傷口に薬をぬり、包帯を巻いて応急手当をしました。それから自分のろばに乗せ、宿屋まで運んで、一晩中、看病してあげました。 35 翌日、宿屋の主人にデナリ銀貨二枚を渡し、『あの人を介抱してあげてください。足りない分は、私が帰りに寄って払いますから』と頼みました。

36 この三人のうちだれが、強盗に襲われた人の隣人になったと思いますか。」 37 律法の専門家は答えました。「もちろん、親切にしてやった人です。」この答えを聞くと、イエスは言われました。「そのとおりです。あなたも同じようにしなさい。」

38 エルサレムへの旅の途中で、イエスはある村に立ち寄られました。マルタという女が、喜んで一行を家に迎えました。 39 マルタにはマリヤという妹がいました。マリヤはイエスのそばに座り込んで、その話にじっと聞き入っていました。 40 一方マルタはというと、てんてこ舞いの忙しさで、「どんなおもてなしをしようかしら。あれがいいかしら、それとも……」と、気が落ち着きません。とうとう彼女は、イエスのところへ来て、文句を言いました。「先生。私が目が回るほど忙しい思いをしているのに、妹ときたら、何もしないで座っているだけなんです。少しは手伝いをするように、おっしゃってください。」 41 しかし主は、マルタに言われました。「マルタ。あなたは、あまりにも多くのことに気を遣いすぎているようです。 42 でも、どうしても必要なことはただ一つだけです。マリヤはそれを見つけたのです。彼女からそれを取り上げてはいけません。」

祈りについて

11 ある時、イエスは外で祈っておられました。ちょうど祈り終えたところへ一人の弟子が来て、「主よ。バプテスマのヨハネが弟子たちに教えたように、私たちにも祈りを教えてください」と願いました。

そこでイエスは、「このように祈りなさい」とお教えになりました。

「天のお父様。
あなたのきよい御名があがめられますように。
あなたの御国がすぐに来ますように。

私たちに日々必要な食物をお与えください。

私たちの罪をお赦しください。

私たちも、私たちに罪を犯した者を赦します。
私たちを誘惑に会わせないでください。」

5-6 祈りについての教えはまだ続きました。それが、このたとえです。「真夜中に、どうしてもパンを三つ借りなければならなくなって、友達の家に駆けつけたとします。戸をドンドンたたき、声を張り上げて、『迷惑をかけてすまない。突然のお客があったのだけど、あいにく、家には一切れのパンもないんだ。お願いだから貸してくれないか』と頼みます。 友達は何と答えるでしょう。中から、『かんべんしてくれ。いま何時だと思っているんだ。戸じまりもしてしまったし、もうみんな寝ている。何も出してやれないよ』と返って来るだけかもしれません。 しかし、友達だからというのでは何もしてくれなくても、しつこく戸をたたき続けるなら、その根気に負けて、必要な物を出してくれるでしょう。 祈りも同じです。あきらめずに求め続けなさい。そうすれば与えられます。捜し続けなさい。そうすれば見つかります。戸をたたきなさい。そうすれば開けてもらえます。 10 求める人は与えられ、捜す人は見つけ出し、戸をたたく人は開けてもらえるのです。

11 パンをねだる子どもに、石ころを与える父親がいるでしょうか。魚が食べたいと言う子どもに、毒蛇を与える親がいるでしょうか。 12 卵がほしいと言うのに、さそりを渡したりするでしょうか。もちろん、そんなはずはありません。 13 罪深い人間でさえ、子どもには良い物を与えたいと思うのが人情です。そうだとしたら天の父が、求める者に聖霊を下さらないわけはありません。」

14 ある時、イエスは、悪霊につかれて口がきけない男から悪霊を追い出されました。すると、男がしゃべりだしたのです。その場に居合わせた人々はすっかり驚いてしまいました。 15 しかし中には、意地悪く中傷する者もいました。「別に驚くほどのことじゃない。悪霊を追い出すことなんか朝飯前だろう。なにしろイエスは、悪霊の王ベルゼブル(サタン)の力をもらっているのだから。」 16 またほかの者は、ほんとうにイエスがメシヤ(救い主)なら、その証拠に、何か天からのしるしを見せてほしいと求めました。

17 そういう一人一人の心を見抜いて、イエスは言われました。「内乱の絶えない国は滅びます。争ったり、けんかばかりしている家庭も同じことです。 18 あなたがたの言うように、ベルゼブルがわたしに悪霊を追い出す力を与えて、自分自身と戦っているとしたら、どうしてサタンの国はやっていけるでしょう。 19 あなたがたの仲間にも、悪霊を追い出す人がいるではありませんか。もしわたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出しているというのなら、彼らだってそうでしょう。あなたがたの考えが正しいかどうか、その人たちに聞いてみたらどうです。 20 しかし、わたしが神の力で悪霊を追い出しているのなら、もう神の国があなたがたのところに来ている証拠です。 21 強く、完全武装したサタンが宮殿を守っているうちは、彼の国は安泰です。 22 しかし、もっと強く、もっと強力な武器を持った者が襲いかかったら、難なく倒され、武器も持ち物も、一つ残らず取り上げられてしまうでしょう。 23 わたしに味方しない者はみな敵です。助けてくれない者はじゃまをする者です。 24 悪霊が人から追い出されると、別の住みかはないかと荒野をあちこちうろつき回ります。ところが適当な場所が見つからないので、やっぱりもとの所へ戻って行きます。 25 帰って見ると、もとの家はすみずみまで掃除が行き届き、きれいになっています。 26 すると、自分よりたちの悪い七つの悪霊を連れて来て住みつくのです。そうなったら、その人の状態は以前よりもっと悪くなります。」

27 こう話しておられると、群衆の中から、一人の女が感きわまって叫びました。「あなたのお母様はなんと幸せな方でしょう! あなたを宿したお腹、あなたの吸った乳房はなんと祝福されているでしょう!」 28 しかしイエスは、「そのとおりです。でも、神のことばを聞いて、そのとおり実行する人のほうが、もっと祝福されているのです」と言われました。

29 群衆の数はどんどんふくれ上がる一方でした。そこで、イエスは教え始められました。「今の時代は、悪のはびこる悪い時代です。人々は寄ってたかって、メシヤなら何か不思議なしるしを起こして見せろと、しつこく求めます。けれども、見せられる証拠はただ一つ、ヨナの奇跡だけです。 30 ヨナの経験は、ニネベの人たちの目に、神がヨナを派遣されたことの明らかな証拠と映りました。わたしも、このヨナと同じような経験をします。それが、わたしをこの世の人たちのところへ遣わしたのは神だという、動かぬ証拠となるのです。 31 さばきの日には、シェバの女王が立ち上がり、この時代の人々を名指しで断罪します。彼女は、ソロモンから知恵のことばを聞くために、あれほど遠い国から旅して来ることをいとわなかったからです。けれども、そのソロモンよりはるかに偉大な者が、ここにいるのです。それなのに、だれ一人見向きもしません。 32 ニネベの人たちも立ち上がり、この時代の人々を罪に定めます。彼らはヨナの教えを聞いて、それまでの堕落しきった生活を悔い改めたからです。けれども、そのヨナよりもっと偉大な者が、ここにいるのです。ところが、耳を傾ける人は一人もいません。

33 ランプをつけて、わざわざそれを隠す人がいますか? ランプは部屋を明るく照らすものだから、燭台の上に置かなければ何にもなりません。 34 目は、心の中まで明るくします。澄みきった目は、たましいの中まで光を通します。肉欲に汚れた目は、光をさえぎり、あなたを暗闇に閉じ込めてしまいます。 35 ですから、光がおおい隠されないように、よく気をつけなさい。 36 心の内面が光で満ちあふれている人は、顔も、光をあてられたように明るく輝きます。」

偽善者のまちがい

37-38 話が一段落したところで、あるパリサイ人がイエスを食事に招待しました。イエスは誘われるまま彼の家に行き、食卓に着かれました。ところが、その時、イエスはきよめの手洗いをなさいませんでした。この儀式はユダヤでは必ず行う習慣だったので、それを見た家の主人は驚きました。 39 イエスはおっしゃいました。「あなたがたパリサイ人は、確かに外側はきれいに洗います。しかし、内側はどうですか。汚れたままで、貪欲や邪悪でいっぱいではありませんか。 40 愚かな人たち。神は外側だけを造られたのですか。神は内側も造られたのです。 41 内面のきよさは行いに表れます。貧しい人たちにどれだけ愛を実践するかによって、はっきりと表れるのです。

42 あなたがたパリサイ人は、実にいまわしい者です。どんなわずかな収入でも、実にきちょうめんに十分の一をささげていながら、正義を行うことと神を愛することは、きれいさっぱり忘れているのですから。もちろん、十分の一献金は大いにけっこうです。しかし、もっと大切なことをなおざりにしては意味がありません。

43 あなたがたパリサイ人は、実にいまわしい者です。会堂で上座に座ったり、市場で、みんなからていねいなあいさつを受けたりするのが、何より好きなのです。 44 そんなあなたがたを待っているのは何でしょう。恐ろしいさばきです。あなたがたはまるで、野原にある、人目につかない墓のようです。人々は、汚れたものが近くにあるとは気づかず、平気でそばを通り過ぎるのです。」

45 そばに立って話を聞いていた律法の専門家が、我慢がならないといったふうに、食ってかかりました。「ことばがすぎませんか。私たちを侮辱することを言うとは。」 46 イエスは言われました。「そんなことはありません。律法の専門家たち。あなたがたにも恐ろしいさばきが待ち受けているのです。とうてい実行できない命令を与えて、人々を押しつぶしておきながら、自分は守ろうともしないのですから。 47 あなたがたは、いまわしい者です。昔、預言者たちを殺した先祖とそっくりです。 48 人殺しと少しも変わりません。先祖が殺した預言者たちの記念碑を建て、『先祖は正しかった』と認めているのですから。だから、あなたがたも、きっと同じことをしたでしょう。 49 神はこう言っておられます。『わたしは預言者や使徒たちを派遣します。しかしあなたがたは、彼らを殺したり、迫害したりするのです。』 50-51 今の時代に生きるあなたがたは、世界の初めからずっと、すなわち、アベルが殺された時創世4・8から、ザカリヤが聖所と祭壇との間で殺された時Ⅱ歴代24・20-22まで、神の預言者たちを殺し続けてきた責任を問われます。そうです。確かにあなたがたには責任があるのです。 52 律法の専門家たちよ、あなたがたはわざわいです。人々の目から真理を隠しているのですから。あなたがたは自分が真理を信じないばかりか、ほかの人たちが信じるチャンスまでも奪っているのです。」

53-54 それは、パリサイ人や律法の専門家たちに激しい敵対心を生じさせました。この時からです。彼らがむずかしい質問を矢のようにあびせて、何とかイエスをわなにかけ、逮捕する口実を得ようとし始めたのは。

神を恐れなさい

12 そのうちに、群衆の数はますますふくれ上がり、足の踏み場もない有様です。イエスはまず、弟子たちに警告なさいました。「何よりも、パリサイ人の偽善ぶりに注意しなさい。ほんとうは悪いことをたくらんでいるのに善人ぶる者たちのやり方に、ごまかされてはいけません。 しかし、そういう偽善は、いつまでも隠しおおせるものではありません。やがてパン種(パンの製造に使用する酵母)のようにふくれ始め、だれの目にもはっきりします。 暗闇にまぎれて言ったことがみな、明るみで聞かれ、奥の部屋でささやいたことが屋上から大声で宣伝されるのです。

親しい友よ。体を殺しても、たましいには指一本ふれることができない者たちを恐れてはいけません。 ほんとうに恐れなければならない方を教えましょう。殺した後に、地獄に投げ込む力を持っておられる神を恐れなさい。神こそ、ほんとうに恐れなければならない方です。 雀五羽はいったい、いくらで売られていますか。たったの二アサリオン(一日分の賃金一デナリの八分の一)ではありませんか。こんな雀の一羽でさえ、神はお見捨てにならないのです。 それどころか、あなたがたの髪の毛の数さえご存じです。だから、恐れることはありません。あなたがたは、たくさんの雀よりはるかに価値があるのですから。 次のことをはっきりさせておきましょう。この地上で、わたしを友とはっきり認める人を、メシヤであるわたしも、天使の前で、確かにわたしの友だと認めます。 だが、もし人前でわたしを知らないと言うなら、わたしも天使の前で、こんな人は見覚えもないと言います。 10 たとえ、わたしに逆らっても赦されます。しかし、聖霊を汚す者は絶対に赦されないのです。 11 裁判を受けるために役人や会堂の権力者たちの前に引き出されても、どう釈明しようかなどと心配してはいけません。 12 聖霊が、時にかなったことばを教えてくださるからです。」

13 その時、群衆の中から一人の男が叫びました。「先生! どうぞ兄に、父の遺産を分けてくれるよう言ってください。」 14 「だれがわたしを、そんなことの裁判官にしたのですか。」 15 続けてイエスは群衆に言われました。「貪欲にはくれぐれも注意しなさい。どんな金持ちでも、人のいのちは財産とは無関係なのですから。」

16 それからイエスは、たとえ話を一つなさいました。「ある金持ちが、良い作物のとれる肥えた畑を持っていました。 17 倉はいっぱいで、収穫物を全部納めきれないほどです。あれこれ考えたあげく、うまい考えを思いつきました。 18 『こうすればいい。あの倉を取りこわして、もっと大きいのを建てる。そうすれば、作物を全部納められる。』 19 ひとり満足した金持ちは、われとわが身に言い聞かせたのです。『もう何も心配はいらないぞ。これから先何年分もの食料がたっぷりある。さあ、食べて、飲んで、楽しくやろう。』 20 しかし神は、こう言われました。『愚か者よ! あなたのいのちは、今夜にもなくなる。そうしたら、ここにある物は、いったいだれのものになるのか。』 21 いいですか。この地上でいくらため込んでも、天国に財産を持っていない者は、愚か者なのです。」

22 それからまた、弟子たちのほうを向き、先を続けられました。「ですから、言っておきましょう。食べ物は十分か、着る物はあるか、といったことでいちいち心配するのはやめなさい。 23 人のいのちは、食べ物や着る物よりどれだけ価値があるか知れないのです。 24 からすを見なさい。種もまかず、刈り入れもせず、倉を持っているわけでもありません。それでもゆうゆうと構えていられるのは、神が養ってくださるからです。神の目には、からすなどより、あなたがたのほうが大切なのです。 25 それに、くよくよしたところで、どうにもなりません。心配すれば、寿命が一日でも延びるのですか。 26 こんな小さなことさえできない者が、もっと大きなことを心配したところで何になるでしょう。

27 ゆりの花を見なさい。どうして育つのでしょう。紡いだり、織ったりするわけではありません。栄華をきわめたソロモンでさえ、この花ほど着飾ってはいませんでした。 28 今日は咲き誇っていても、明日はしぼんでしまう花でさえ、神はこのように装ってくださるのです。そうだとしたら、疑い深い人たちよ、神がどんなに良くしてくださるかとは考えないのですか。 29 何を食べようか、何を飲もうかと心配をするのはやめなさい。神が用意してくださるのに、思いわずらってはいけません。 30 人は毎日のパンのためにあくせく働きますが、天の父は、あなたがたが必要なものをすべてご存じなのです。 31 神の国を第一に考えるなら、神は私たちに必要なものを毎日与えてくださるのです。

32 また、たとえ少数派でも恐れることはありません。神は喜んで、あなたがたを神の国に導いてくださるのです。 33 持ち物を売り払って、貧しい人たちに分けてあげなさい。そうすれば、天にある財布はふくらんで、はち切れそうになること間違いありません。ところが、この財布は破れもしなければ、穴があくこともないから、財産がなくなることは絶対にありません。どろぼうに盗まれることも、虫に食われる心配もありません。 34 宝のある所に、自分の心と思いもあるのです。

神に忠実な人は

35 きちんと身じたくを整え、あかりをともしていなさい。 36 主人が婚礼から戻るのを待っている人のように。こうしていれば、主人がノックすると同時に、戸を開けて迎えることができます。 37 そのように忠実な姿を見られる人は幸いです。主人は感心して、食卓で、反対に自分のほうから給仕してくれるでしょう。 38 主人の帰りは夜の九時になるか、真夜中になるかわかりません。しかし、いつ帰って来てもいいように準備のできている人は幸いです。 39 どろぼうがいつ入るかわかっていれば、家人は、てぐすね引いて待ちかまえているでしょう。同様に、主人の帰りが何時ごろかはっきりわかっていれば、準備をして待つのはあたりまえです。 40 だから、いつでも用意していなさい。メシヤのわたしは、思いがけない時に来るのです。」

41 ペテロが、いぶかしげに尋ねました。「主よ。今のお話は、私たちにだけ話されたのですか。それとも、ここにいるみんなのためなのですか。」 42-44 イエスは、お答えになりました。「では、こう言えばわかるでしょうか。主人の留守中、ほかの召使たちの面倒を見る責任を負わされた、忠実で賢い人たちに話しているのです。主人が戻った時、かいがいしく働いているところを見られるなら、ほんとうに幸いです。主人から全財産を任されることになるでしょう。 45 ところが、『主人はまだまだお帰りになるまい』とたかをくくり、召使たちを打ちたたき、食べたり飲んだりしていたらどうでしょう。 46 主人は出し抜けに帰って来て、この有様を見ます。不届き者は、責任ある地位からはずされ、不忠実な者と同じ仕事につけられるのでしょう。 47 自分の義務を心得ながら、果たそうとしなかった罰です。 48 しかし、自分でも気がつかないうちに悪いことをした人の罰は、軽くてすみます。だれでも多く与えられた者は多く求められ、多く任された者は多く要求されるのです。

49 わたしは、この地上に火を投げ込むために来ました。ああ、この仕事がもうすでに終わっていたらよかったのですが。 50 しかし、わたしには受けるべきバプテスマ(洗礼)が待っています。それが成し遂げられるまで、どんなに苦しむことでしょう。 51 このわたしが、地上に平和を与えるために来たと思っているとしたら、そうではありません。それどころか、争いと分裂を引き起こすために来たのです。 52 今から後、家庭内に分裂が生じるでしょう。五人家族であれば、三人対二人というように、わたしに賛成するか反対するかで分かれて争うことになります。 53 わたしのことで、息子は父に逆らうでしょう。母と娘は一致しなくなり、しゅうとめも嫁に退けられるでしょう。」

54 群衆にもこう語られました。「あなたがたは天気を予測するのがとても上手です。西の空に雲がわき上がれば、『にわか雨が来る』と言い、まさにそのとおりになります。 55 また南風が吹けば、『ひどく暑い日になるぞ』と言い、それもまた予測どおりになるのです。 56 偽善者たちよ! これほど上手に空模様を見分けられるのに、目前に迫る危機については少しの注意もはらおうとしないのですか。 57 どうして、何が正しいかを見分けようとしないのですか。 58 裁判所へ行く途中、あなたを訴える人と出会ったら、裁判官の前に出るまでに、問題を解決するよう努力しなさい。さもないと、牢獄に入れられてしまいます。 59 そうなったら、最後の一レプタ(最小単位の銅貨)まで罰金を払いきらなければ、出してもらえないのです。」

救われる人は少ない

13 そのころ、ガリラヤ出身のユダヤ人が数名、エルサレムの神殿で供え物をしていた時、ピラトに殺害されたというニュースが、イエスに伝えられました。 これを聞いたイエスは言われました。「この人たちが、ほかのどのガリラヤ出身の人よりも罪が深かったから、こんな災難に会ったと思いますか。 それは違います。あなたがたも、悔い改めて神に立ち返らなければ、同じように滅びるのです。 また、シロアムの塔の下敷きになって、十八人が死にました。彼らのことはどう思いますか。エルサレムで一番罪深い人たちだったのでしょうか。 そんなことはありません。あなたがたも罪を悔い改めないなら、同じように滅びるのです。」

そして、次のようなたとえを話されました。「ある人が、ぶどう園にいちじくの木を植えました。そして、実がなっているかどうか、何度も見に行きました。ところが、期待はいつも裏切られてばかりです。 とうとう主人は怒って、『こんなろくでもない木は切り倒してしまいなさい』と番人に命じました。『三年も待ったのに、一つも実がなったためしがない。もうこれ以上、手をかけることはない。何のために土地をふさいでいるのか。』 すると番人は、何とか思いとどまらせようと、なだめにかかりました。『ご主人様。もう一年だけお待ちください。念入りに肥料をやってみましょう。 それで来年実がなれば、もうけものです。だめなら、それから切り倒しても遅くはありません。』」

10 ある安息日のこと、イエスは会堂で教えておられました。 11 そこに、十八年もの間、病で腰が曲がったきりで伸ばすことのできない女がいました。 12 イエスが女をそばへ呼び、「さあ、あなたの病気は治りました」とおっしゃって、 13 手をふれると、女の腰は伸びました。女は喜びを抑えきれず、神をあがめ、賛美しました。 14 ところが、会堂の責任を持っていた、この地方のユダヤ人指導者は、それが安息日だというので腹を立て、群衆に怒りをぶちまけました。「よりによって安息日に病気を治してもらうなど、もってのほかだ! 仕事のできる日は、一週間に六日もあるのだから、その間に治してもらえばいいのだ。」 15 しかし、イエスは言われました。「いいえ、あなたがたこそ偽善者です。安息日に働いていないと言いきれるのですか。安息日でも、家畜を小屋から出して、水を飲ませに連れて行くではありませんか。 16 わたしは今、十八年もの間サタンに束縛されていた、ユダヤ人の女を解放してあげたのです。たまたまそれが安息日だったからといって、どこがいけないのですか。」 17 このイエスのことばに、敵対する者たちは恥じ入り、群衆はみな、イエスの行ったすばらしいみわざを喜びました。

18 そこでイエスは、神の国について教え始められました。「神の国は何に似ているでしょう。どういうふうに説明したらいいでしょう。 19 神の国は、畑にまいた小さなからし種のようです。やがて大きな木に成長し、鳥が枝に巣をかけるほどになるのです。

20-21 また神の国は、パン種のようだとも言えます。目には見えないけれども、少しずつ確実に作用して、パン全体を大きくふくらませるのです。」

22 イエスは町々村々を通り、人々に教えながら、ひたすらエルサレムへと進んで行かれました。 23 ある人がイエスに、「救われる人は少ないのでしょうか」と尋ねました。イエスはお答えになりました。 24 「天国への門は狭いのです。できるかぎりの努力をして、そこから入りなさい。よく言っておきますが、入ろうとしても、入れない人がたくさんいるのです。 25 家の主人が戸を閉めてからでは遅すぎます。外に立ち、どんどんたたきながら、『ご主人様! 開けてください、お願いでございます』と、なりふりかまわず頼んでも、中からは、『おまえたちなど全然知らない』と、冷たい返事が返ってくるだけです。 26 あなたがたはそれでもあきらめず、『何かのまちがいでは? 私たちは、あなたと食事をごいっしょしたこともありますし、大通りで教えをいただきました』と食い下がるでしょう。 27 けれども主人は、けんもほろろに答えるのです。『おまえたちなど知らないと言うのが、聞こえないのか。おまえたちのような者は、ここには入れないのだ。とっとと行ってしまいなさい。』

28 アブラハム、イサク、ヤコブ、それに預言者たちもみな神の国に入っているのに、あなたがたはいつまでも外に立ち尽くして、泣きわめき、歯ぎしりするのです。 29 人々は、あちらからもこちらからも来て、神の国に迎え入れられ、席に着きます。 30 いいですか。このことを肝に銘じておきなさい。今は軽んじられている者が、その時には大いにほめたたえられ、今は重んじられている者が、その時には最も軽んじられるのです。」

31 ちょうどその時、数人のパリサイ人が近寄って来て、イエスに忠告しました。「いのちが惜しかったら、ここから出て行きなさい。ヘロデ王があなたを殺そうとねらっています。」

32 イエスはお答えになりました。「あのきつねにこう言ってやりなさい。今日も、明日も、わたしは悪霊を追い出し、病人をいやし、そして三日目に目的を果たします。 33 今日も、明日も、その次の日も、わたしは進んで行くのです。神から遣わされた預言者が、エルサレム以外の場所で殺されることはありえないからです。

34 ああ、エルサレムよ。なんという町でしょう。預言者たちを殺し、町を救うために遣わされた人たちを石で打ち殺すとは。めんどりがひなを翼の下にかばうように、わたしは何度あなたの子どもたちを集めようとしたことでしょう。しかし、あなたがたはそれを拒んだのです。 35 だから今、あなたがたの家は荒れ果てたまま見捨てられます。はっきり言いましょう。あなたがたが、『主の名によって来られる方、祝福あれ』と言うその日まで、わたしの姿を二度と見ることはないのです。」

14 1-2 ある安息日のこと、イエスはパリサイ派の指導者の家に入られました。パリサイ人たちは、イエスがその場にいた水腫を患っている男をどうするかを、息をこらし、目をさらのようにして見ていました。 するとイエスは、回りに立っているパリサイ人や律法の専門家たちに、「ところで、安息日に病気を治すことは、おきてにかないますか。それとも違反でしょうか」とお尋ねになりました。 だれも、押し黙って答えません。イエスは男の手を取り、病気を治すと、すぐに家にお帰しになりました。 それから、パリサイ人たちに面と向かってお尋ねになりました。「あなたがたのうちで、安息日に絶対働かない者がいますか。自分の息子や牛が穴に落ちたら、安息日だろうが何だろうが、すぐに引き上げてやるのではありませんか。」 今度も、あえて答える者はいませんでした。

自分から名誉を求めないように

イエスは、招かれた人たちが、少しでも上席に座ろうとしているのに気づいて、こう忠告されました。 「婚礼に招かれた時、いつでも上席に座ろうとしてはいけません。あなたよりもっと名誉ある人が招かれていた場合のことを考えてごらんなさい。その人が姿を見せたら、 主人は、『すみませんが、こちらの方と替わっていただけませんか』と申し出るでしょう。そうなると、あなたは赤恥をかいた上に、末席に着かなければならないのです。 10 招かれた時には、まず末席に座りなさい。そうすれば、主人が来て、『どうぞご遠慮なさらないで、もっと上席にお進みください』と勧めるでしょう。あなたは居並ぶ客の前で面目を施すことになるのです。 11 自分から名誉を受けようとする人は低くされ、自分を低くする人は名誉を受けるのです。」

12 それからイエスは、ご自分を招いてくれた人にも話されました。「食事をふるまう時には、友人や兄弟、親類、それにお金持ちの知人などを招かないようにしなさい。彼らはお返しに、あなたを招くからです。 13 むしろ、貧しい人や体の不自由な人、足の不自由な人、盲人たちを招待しなさい。 14 幸い、そういう人たちはお返しができないので、やがて神を敬う者たちの復活の日に、神があなたにその分を報いてくださるでしょう。」

15 この忠告を聞いて、同席していた客の一人が、「神の国で食事をする、それ以上の幸せ者はいないでしょう」と言いました。 16 イエスは、遠回しにたとえでお答えになりました。「ある人が盛大な宴会を催そうと、大ぜいの人に招待状を送りました。 17 準備がすっかり整ったので、召使に、『宴会が始まる時間です』とふれ回らせました。 18 ところがなんと、招待客はみな、そろいもそろって口実をつくり、出席を断り始めたのです。一人は、ちょうど畑を買ったところなので、これから見に行かなければならないと断り、 19 ほかの人は、五くびき(十頭)の牛を買ったので試してみたいと言いわけをしました。 20 またある人は、結婚したばかりで行くことができないと断りました。 21 召使は戻り、そのとおり主人に報告しました。主人はかんかんになって怒り、『よし、それなら、今度は大通りや裏通りに行って、貧しい人や体の不自由な人、足の不自由な人、盲人たちを残らず招待して来なさい』と命じました。 22 そうやって客を集めても、会場にはまだ空席が目立ちます。 23 それで、主人は言いました。『もうこうなったら、家がいっぱいになるように、街道や垣根の外へ行って、出会った者はだれでも、むりにでも連れて来なさい。 24 初めに招待した者たちの中には、宴会の食事を味わうことのできる者は一人もいないのだ。』」

25 さて、イエスのあとには大ぜいの群衆がついて行きました。イエスはふり返り、彼らに言われました。 26 「だれでも、わたしに従いたければ、父、母、妻、子、兄弟、姉妹以上に、いや、自分のいのち以上にわたしを愛しなさい。 27 また、自分の十字架を負い、わたしに従って来なければ、わたしの弟子になることはできせん。 28 仕事に手をつけるのは、必要な経費を見積もってからにしなさい。家を建てるのに、資金の見通しが立たないうちに建て始める人がいますか。 29 そんなことをすれば、土台を据えただけで、資金切れとなるかもしれません。それこそいい物笑いです。 30 人々は、『あれをごらん。建てかけで金がなくなったんだとさ』と、あざ笑うでしょう。 31 また、一万人の兵を持つ王が、二万人の敵軍と交戦しようとする時は、必ず参謀会議を開き、はたして勝ち目があるかどうか、あらゆる角度から検討するでしょう。 32 どうしても勝ち目がないとわかれば、敵軍がまだ遠くにいるうちに使者を送り、何としても講和を求めるでしょう。 33 そういうわけで、だれでも、自分の財産を数え上げ、それを全部わたしのために捨てるのでなければ、わたしの弟子になることはできません。 34 塩が塩けをなくしたら、何の役に立ちますか。 35 塩の価値のない塩など、肥やしにもなりません。捨てるほかないのです。聞く耳のある人は、よく聞きなさい。」

失われたものが見つかる喜び

15 イエスの教えを聞きに来る人たちの中には、あくどい取り立てをする取税人や罪人といわれる者たちがかなりいました。 ユダヤ教の指導者や律法の専門家は、イエスがそういう問題の多い人々とつきあい、時には食事までいっしょにするのを見て、批判しました。

そこでイエスは、次のようなたとえ話をなさいました。 「羊を百匹持っているとします。そのうちの一匹が迷い出て、荒野で行方がわからなくなったらどうしますか。ほかの九十九匹は放っておいて、いなくなった一匹が見つかるまで捜し歩くでしょう。 そして、見つかったら、大喜びで羊を肩にかつぎ上げ、 家に帰ると、さっそく友達や近所の人たちを呼び集めて、いっしょに喜んでもらうでしょう。 それと同じことです。迷い出た一人の罪人が神のもとに帰った時は、迷ったことのない九十九人を合わせたよりも大きな喜びが、天にあふれるのです。

別のたとえで話してみましょう。女が銀貨を十枚持っていて、もし一枚なくしてしまったら、女はランプをつけ、家の中をすみからすみまで掃除して、その一枚を見つけるまで、必死で捜し回るでしょう。 そして見つけ出したら、友達や近所の人を呼び、いっしょに喜んでもらうでしょう。 10 同じように、一人の罪人が罪を悔いて神のもとに帰った時、天使たちはたいへんな喜びにわくのです。」

11 イエスはもっとよく説明しようと、また別のたとえも話されました。「ある人に息子が二人いました。 12 ある日、弟のほうが出し抜けに、『お父さん。あなたが亡くなってからでなく、今すぐ財産の分け前がほしいんです』と言いだしたのです。それで父親は、二人にそれぞれ財産を分けてやりました。 13 もらう物をもらうと、何日もたたないうちに、弟は荷物をまとめ、遠い国に旅立ちました。そこで放蕩に明け暮れ、財産を使い果たしてしまいました。 14 一文なしになった時、その国に大ききんが起こり、食べる物にも事欠くようになりました。 15 それで彼は、その国のある人のもとで、畑で豚を飼う仕事をもらいました。 16 あまりのひもじさに、豚のえさのいなご豆さえ食べたいほどでしたが、だれも食べる物をくれません。 17 こんな毎日を送るうち、彼もやっと目が覚めました。『お父さんの家なら雇い人にだって、あり余るほど食べ物があるだろうに。なのに自分は、なんてみじめなんだ。こんな所で飢え死にしかけている。 18 そうだ、家に帰ろう。帰って、お父さんに頼もう。「お父さん。すみませんでした。神様にもお父さんにも、罪を犯してしまいました。 19 もう息子と呼ばれる資格はありません。どうか、雇い人として使ってください。」』

20 決心がつくと、彼は父親のもとに帰って行きました。ところが、家まではまだ遠く離れていたというのに、父親は息子の姿をいち早く見つけたのです。『あれが帰って来た。かわいそうに、あんなみすぼらしいなりで。』こう思うと、じっと待ってなどいられません。走り寄って抱きしめ、口づけしました。 21 『お父さん。すみませんでした。ぼくは、神様にもお父さんにも、罪を犯してしまいました。もう息子と呼ばれる資格はありません。』 22 ところが父親は、使用人たちにこう言いつけたのです。『さあ、何をぼやぼやしている。一番良い服を出して、この子に着せてやりなさい。宝石のついた指輪も、くつもだ。 23 それから肥えた子牛を料理して、盛大な祝宴の用意をしなさい。 24 死んだものとあきらめていた息子が生き返り、行方の知れなかった息子が帰って来たのだから。』こうして祝宴が始まりました。

25 ところで、兄のほうはどうだったでしょう。彼は、その日も畑で働いていました。家に戻ってみると、何やら楽しげな踊りの音楽が聞こえます。 26 いったい何事かと、使用人の一人に尋ねると、 27 『弟さんが帰って来られたのです。だんな様は、たいへんなお喜びで、肥えた子牛を料理し、ご無事を祝う宴会を開いておられるのです』というのです。 28 事情を聞いて、兄は無性に腹が立ってきました。家に入ろうともしません。父親が出て来てなだめましたが、 29 兄は父に食ってかかりました。『私はこれまで、お父さんのために汗水流して働いてきました。お父さんの言いつけに、ただの一度もそむいたことはありません。なのに、友達と宴会を開けと言って、子やぎ一匹くれたことがありますか。 30 ところが、遊女におぼれてあなたのお金を使い果たした弟のためには、最上の子牛を料理して、お祭り騒ぎをするのですか。』 31 すると、父親は言いました。『いいか、よく聞きなさい。おまえはいつだって、私のそばにいたではないか。私のものは全部おまえのものだ。 32 考えてもみなさい。あれはおまえの弟なのだよ。死んだと思ってあきらめていたのが、無事に帰って来たのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、お祝いするのはあたりまえではないか。』」

神と富の両方に仕えることはできない

16 さてイエスは、弟子たちにも話をされました。「ある金持ちが会計の管理者を雇いました。ところが、この管理者はずる賢い男で数字をごまかしている、といううわさを聞きました。 さっそく金持ちは彼を呼びつけて、言いました。『帳簿をごまかしているという、もっぱらのうわさだ。なんということをしたのか。もう任せておけないから、やめてもらおう。報告書を出しなさい。』 男は考え込みました。『さて、どうしたものか。首になるのは時間の問題だ。力仕事はできないし、かといって、物ごいをするのも恥だ。 待てよ。そうだ、こうしよう。これなら、いつ首になっても、みんなが面倒を見てくれるに違いない。』 どうしたかというと、彼は雇い主からお金を借りている人を一人一人呼び出して、話し合ったのです。まず、最初の人とはこんなぐあいに。『主人にいくら借りがありますか。』 『オリーブ油百バテ(三千五百リットル)です。』『そうですか。これが証文ですね。さあ、これを破って。代わりに、その半分を借りたという証文を書くのです。』 次の人にも同じように、『あなたの借りはどのくらいですか。』『小麦百コル(三十トン)です。』『いいでしょう。では、新しく八十コルの証文を書いてください。これと取り替えてあげるから。』 この抜け目のなさには、さすがの金持ちも舌を巻き、うまいやり方だ、とほめないわけにはいきませんでした。確かに、この世の人々のほうが、神を信じる者たちよりずっと抜け目がないのです。

不正の富を利用してでも、親しい友をつくりなさい。そうしておけば、富がなくなった時、親切にしてやった人たちが、永遠の天の住まいに迎え入れてくれるでしょう。 10 小さなことに忠実な人は、大きなことにも忠実です。小さなことに不忠実な人は、大きな責任を与えられても、忠実に果たすことはできません。 11 この世の富も任せられない人に、どうして、天にあるほんとうの富を任せることができるでしょう。 12 他人の富に忠実でなかったら、自分の富さえ任せてもらえないのです。 13 だれも、二人の主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方に忠実であるか、あるいは、一方を重んじて他方は軽んじるようになるからです。神と富の両方に仕えることはできないのです。」

14 何よりもお金に目のないパリサイ人たちは、この話を聞いて、イエスをあざけりました。 15 そんな彼らに、イエスはおっしゃいました。「あなたがたは、人前ではいかにも上品でうやうやしい態度をとっています。しかし神は、あなたがたの悪い心をお見通しです。いくら人の目をごまかし、賞賛を受けても、神には憎まれるのです。 16 バプテスマのヨハネが現れて教えを説き始めるまで、モーセの律法と預言者たちのことば(旧約聖書)が、あなたがたの指針でした。しかしヨハネ以後は、神の国の福音が宣べ伝えられ、大ぜいの人がむりにでも入ろうと、押し合いへし合いしています。 17 しかし、律法の一つでも効力を失ったわけではありません。たとえ天地が滅びようと、律法はびくともしないのです。 18 だれでも、妻を離縁してほかの女と結婚する者は、姦通罪を犯すことになり、夫に離縁された女と結婚する者も同罪なのです。」

19 イエスは話を続けられました。「ある金持ちがいました。きらびやかな服を着、ぜいたく三昧の暮らしでした。 20 ある日のこと、その家の門前に、ひどい病気にかかったラザロという物ごいが横になっていました。 21 金持ちの家の食べ残しでもいい、とにかく食べ物にありつきたいと思っていたのです。かわいそうに、犬までがおできだらけのラザロの体をなめ回しています。 22 やがて彼は死にました。天使たちに連れられて行った先は、生前神を信じ、正しい生活を送った人たちのところでした。そこで、アブラハムのそばにいることになったのです。そのうち、あの金持ちも死んで葬られましたが、 23 彼のたましいは地獄に落ちました。苦しみあえぎながら、ふと目を上げると、はるかかなたにアブラハムといっしょにいるラザロの姿が見えます。 24 金持ちはあらんかぎりの声を張り上げました。『アブラハム様! どうぞお助けを。お願いでございます。ラザロをよこし、水に浸した指先で、ほんのちょっとでも舌を冷やさせてください。この炎の中で、苦しくてたまりません。』 25 しかし、アブラハムは答えました。『思い出してみなさい。おまえは生きている間、ほしい物は何でも手に入れ、思うままの生活をした。だがラザロは、全くの無一物だった。それで今は反対に、ラザロは慰められ、おまえは苦しんでいる。 26 それに、そちらとの間には大きな淵があって、とても行き来はできないのだ。』

27 金持ちは言いました。『ああ、アブラハム様。それならせめて、ラザロを私の父の家にやってください。 28 まだ五人の兄弟が残っているのです。彼らだけは、こんな目に会わせたくありません。どうぞ、この恐ろしい苦しみの場所があることを教えてやってください。』 29 『それは聖書が教えていることではないか。その言うことを聞くべきです。』 30 金持ちはあきらめません。『でも、アブラハム様。彼らは聖書を読みたがらないのです。ですが、もしだれかが死人の中から遣わされたら、彼らも罪深い生活を悔い改めるに違いありません。』 31 アブラハムはきっぱり言いました。『モーセと預言者たちのことばに耳を貸さないのなら、だれかが生き返って話したところで、彼らは聞き入れないだろう。』」

17 ある日のこと、イエスは弟子たちにお話しになりました。「罪を犯させようとする誘惑は、いつもあなたがたにつきまとっています。誘惑する者はいまわしいものです。 これら小さい者の心につまずきを与える者は、首に大きな石をくくりつけられて、海に投げ込まれるほうがましです。 いいですか。友達が罪を犯したら、注意してあげなさい。そして悔い改めたら、赦してあげなさい。 あなたに対して日に七度罪を犯しても、そのたびに『悪かった。赦してくれ』とあやまるなら、赦してあげなさい。」

からし種ほどの信仰

ある日、使徒たちが主に、「もっと信仰が強くなりたいのですが、どうしたらいいでしょう」と尋ねました。 イエスの答えはこうでした。「ほら、あそこに桑の木があるでしょう。ほんの小さな、からし種ほどの信仰でもあれば、あの木を根こそぎ海の中へ投げ込むことぐらい簡単なことです。そう命令しさえすれば、たちまちそのとおりになります。

7-9 ところで、畑を耕すか、羊の番をするかして一日中働いた奴隷が、帰って来るなりどっかと腰をおろし、食事を始めるなどということがあるでしょうか。まず主人の食事のしたくをし、給仕をすませ、それから自分の食事をするのが普通です。しかも、そうしたからといって取り立てて感謝されるわけでもありません。当然のことをしただけです。 10 あなたがたがわたしに従って来るのも同じことです。『私たちはただ、するべきことを果たしているにすぎないのです』と言いなさい。」

11 一行はエルサレムを目指して進み、途中サマリヤとガリラヤの境を通りました。 12 ある村に入ると、十人のツァラアトの人がずっと向こうのほうから、 13 「イエス様! どうぞお助けを!」と大声で叫んでいました。 14 イエスはそちらに目をやり、「さあ、祭司のところへ行き、ツァラアトが治ったことを見せてきなさい」と言われました。彼らがそのとおり出かけて行くと、途中でツァラアトはきれいに治りました。 15-16 その中の一人が、イエスのところに引き返し、足もとにひれ伏して、「ありがとうございます。おっしゃるとおり、すっかりよくなりました。神様に栄光がありますように」と言いました。実はこの人は、ユダヤ人から軽蔑されていたサマリヤ人でした。 17 「はて、十人全部がいやされたはずだが、ほかの九人はどうしたのですか。 18 神を賛美するために帰って来たのは、この外国人のほかにはいないのですか。」 19 こう言ってから、イエスはその男に、「さあ、立って帰りなさい。あなたの信仰があなたを治したのです」と言われました。

準備をして待て

20 ある日、パリサイ人たちがイエスに尋ねました。「神の国はいったい、いつ来るのですか。」イエスは答えて言われました。「神の国は、目に見える形では来ません。 21 『ここに来た』とか、『あそこに来た』とか言えるものではないのです。はっきり言いましょう。神の国は、あなたがたの中にあるのです。」

22 そのあとで、イエスは神の国についてもう一度、弟子たちにお話しになりました。「まもなく、一日でいいから、わたしといっしょにいたいと願っても、もういっしょにいられない日が来ます。 23 その時にはまた、『主が帰って来られた。ここにおられるぞ』とか、『いや、あそこだ』というふうに、情報が乱れ飛ぶでしょう。そんなうわさを信じたり、彼らの扇動に乗ってあとを追いかけたりしてはいけません。 24 わたしが帰って来る時には、はっきりわかるからです。ちょうど、いなずまが空の端から端までひらめき渡るように、一目瞭然なのです。 25 しかしその前に、わたしはひどい苦しみを受け、この国の人々全部から、つまはじきにされなければなりません。 26 わたしが帰って来る時、人々は、かつてのノアの時代のように、神のことなどにはまるで無関心でしょう。 27 ノアが箱舟に入り、洪水が押し寄せ、何もかも滅ぼし尽くすまで、人々は飲んだり、食べたり、結婚したり、いつもと変わらない生活をしていました創世6章) 28 また、ロトの時代の人々とも比べることができるでしょう。当時も、人々はいつもと同じように、食べたり飲んだり、売ったり買ったり、植えたり建てたりの生活をしていましたが、 29 ロトがソドムの町を抜け出した日に、火と硫黄が天から降り注ぎ、一人残らず滅ぼされてしまったのです創世19章) 30 わたしが再び来る時も同じです。その瞬間まで、すべてがいつものとおりなのです。 31 その日、外出中の者は、荷物を取りに家へ戻ってはいけません。畑で働いている者も、家に帰ってはいけません。 32 ロトの妻がどんな目に会ったか、思い出しなさい。 33 だれでも、いのちにしがみつく者はそれを失い、いのちを捨てる者がかえってそれを自分のものにできるのです。 34 よく言っておきます。その夜二人の男が一つの部屋に寝ていると、一人は天に上げられ、一人は残されます。 35-36 家事をしている二人の女のうち、一人は天に上げられ、一人は残されます。また、畑でいっしょに働いている二人の男も同様です。」 37 「主よ。どこでそんなことが起こるのですか。」「死体のあるところに、はげたかも集まるのです。」

祈り続けなさい

18 ある日、イエスは弟子たちに、いつでも祈り、また答えられるまで祈り続けることを教えようと、一つのたとえを話されました。 「ある町に、少しも神を恐れず、人を人とも思わない裁判官がいました。 同じ町に住む一人の未亡人が、たびたびこの裁判官のところへ押しかけ、『訴えられて困っています。どうか私を守ってください』と願い出ました。 4-5 裁判官はしばらくの間、相手にしませんでしたが、あまりのしつこさに我慢できなくなり、心の中でこう考えました。『私は神だろうが人間だろうがこわくないが、あの女ときたらうるさくてかなわない。しかたがない。裁判をしてやることにしよう。そうすれば、もうわずらわしい思いをしなくてすむだろう。』」 主は続けて言われました。「このように、悪徳裁判官でさえ音を上げてしまうのなら、 まして神は、昼も夜もひたすら訴え続ける信者たちを、必ず正しく取り扱ってくださるはずです。そうは思いませんか。 神はすぐにも答えてくださるのです。ただ問題は、メシヤのわたしが帰って来る時、いったいどれだけの人が信仰を持って祈り続けているかです。」

それから、自分を正しい者とし、他人を軽蔑する人たちに、こんな話をなさいました。 10 「二人の男が祈るために神殿へ行きました。一人は自尊心が強く、あくまで自分を正しいと主張するパリサイ人、もう一人は、人のお金をだまし取る取税人でした。 11 パリサイ人は心の中で祈りました。『神様。ありがとうございます。私はほかの人々、特に、ここにいる取税人のような罪人ではありません。人をだましたこともなければ、姦淫したこともありません。 12 一週間に二回は必ず断食し、全収入の十分の一もきちんと献金しています。』 13 一方、取税人は遠く離れて立ち、目を伏せ、悲しみのあまり胸をたたきながら、『神様。罪人の私をあわれんでください』と叫びました。 14 よく言っておきますが、罪を赦されて帰ったのは、パリサイ人ではなく、この罪人のほうです。高慢な者は卑しい者とされ、謙遜な者には大きな名誉が与えられるのです。」

15 ある日のことです。イエスにさわって祝福していただこうと、人々が子どもたちを連れて来ました。ところが弟子たちはそれを見て、じゃまだとしかりました。 16 するとイエスは、子どもたちを呼び寄せ、弟子たちに言われました。「いいから、子どもたちを自由に来させなさい。追い返してはいけません。 17 神の国は、この子どもたちのように、素直に信じる心を持っている人たちのものなのです。」

天国に入るには

18 ある時、一人のユダヤ教の指導者がイエスに尋ねました。「先生。あなたは尊いお方です。そこでお聞きしたいのですが、永遠のいのちを受けるにはどうすればよいのでしょう。」 19 「わたしのことを『尊い』と言うのですか。それがどういうことか、わかっていますか。尊い方は、ただ神お一人だけです。 20 それはそれとして、質問に答えましょう。モーセの戒めはよく知っていますね。『姦淫してはいけない。殺してはいけない。盗んではいけない。うそをついてはいけない。父と母を敬え』とあります。」 21 すると、彼は言いました。「子どものころから、戒めはきちんと守ってきました。」 22 「でも、あなたには一つだけ欠けたところがあります。財産を全部売り払って、貧しい人たちに分けてあげなさい。天に宝をたくわえるのです。それから、わたしについて来なさい。」 23 このイエスのことばに、その人は肩を落として立ち去りました。たいへんな金持ちだったからです。 24 そのうしろ姿を見つめていたイエスは、弟子たちに言われました。「金持ちが神の国に入るのは、なんとむずかしいことでしょう。 25 それよりは、らくだが針の穴を通るほうが、よほどやさしいのです。」 26 これには弟子たちも驚き、思わずことばを返しました。「そんなにむずかしいのですか。だとしたら、救われる人などいるでしょうか。」 27 「人にはできません。だが、神にはできるのです。」 28 すかさずペテロが口をはさみました。「私たちは家も捨てて、お従いしました。」 29 「そうです。あなたがたのように、神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子どもを捨てた者はだれでも、 30 この世ではその何倍もの報いを受け、やがて来る世では、永遠のいのちまでいただけるのです。」

31 ここでイエスは、十二人の弟子たちをそばに呼び寄せ、特に言って聞かせました。「あなたがたも知っているように、わたしたちはエルサレムへ行くところです。そこで、昔の預言者たちのことばどおりのことが、わたしの身に起こります。 32 わたしは外国人の手に渡され、あざけられ、侮辱され、つばをかけられ、 33 むち打たれ、ついには殺されますが、三日目に復活するのです。」 34 ところが弟子たちには、イエスの言われることが全く理解できず、「先生はきっと、なぞをかけておられるのだろう」としか考えられませんでした。

35 ほどなくエリコという町に近づくと、盲人が一人、道ばたに座り込み、通りがかりの人に物ごいをしていました。 36 大ぜいの人があわただしく通り過ぎ、あたりの様子がざわついてきたので、いったいどうしたのかと思った盲人は、そばにいた人をつかまえて尋ねました。 37 すると、ナザレのイエスがお通りになると言います。 38 盲人は、この時とばかり大声で訴えました。「イエス様! ダビデ王の子よ! どうぞ、私にあわれみを!」 39 イエスの前を進んで来た人たちが黙らせようとしましたが、そうすればするほど、ますます大声で叫び立てます。「ダビデ王の子よ! あわれみを!」 40 その時、イエスは足を止め、「あの人を連れて来なさい」と言われました。 41 それから、彼にお尋ねになりました。「わたしにどうしてほしいのですか。」「主よ。見えるようになりたいのです!」 42 「さあ、見えるようになりなさい。あなたの信仰があなたを治したのです。」 43 その瞬間、彼の目は見えるようになりました。そして、心から神をほめたたえながら、イエスについて行きました。この出来事を見ていた人たちもみな、神を賛美しました。

ザアカイの救い

19 1-2 それからイエスはエリコに入り、町をお通りになりました。この町には、ローマに収める税金を取り立てる仕事をしているザアカイという男がいました。取税人の中でもとりわけ権力をふるっていた大金持ちでした。 このザアカイも、ひと目イエスを見ようと思いましたが、背が低かったので、いくら背伸びをしても、人垣のうしろからは何も見えません。 そこで、ずっと先のほうに走って行き、道ばたにあったいちじく桑の木によじ登って、見下ろしていました。 やがて、そこへ差しかかったイエスは足を止め、ザアカイを見上げると、「ザアカイ。早く降りてきなさい。今晩はあなたの家に泊めてもらうつもりでいますから」と言われました。 ザアカイはびっくりして、急いで降りると、大喜びでイエスを家に迎えました。 これを見ていた人々の心中は、おだやかではありません。「なにも、あの札つきの悪党の家の客にならなくても……」と言って、つぶやきました。 しかし、ザアカイは主の前でこう告白しました。「先生。今からは、財産の半分を貧しい人たちに分けてあげます。税金を取り過ぎた人たちには、四倍にして払い戻します。」 9-10 イエスは言われました。「その告白こそ、今日この家に救いが来たことのあかしです。この人も迷い出たアブラハムの子どもの一人なのだから。メシヤ(救い主)のわたしは、このような人を捜し出して救うために来たのです。」

11 イエスがいよいよエルサレムに近づくのを見て、今すぐにでも神の国が実現するのではないか、と早合点した人々がいました。その誤解を正そうと、イエスは一つのたとえ話をなさいました。 12 「ある所に身分の高い人が住んでいました。やがてその地方の王に任命されるため、遠くの都に出かけることになりました。 13 そこで、出発前に十人の家来を呼び寄せ、留守中に事業を始めるように、めいめいに一ミナ(一ミナは当時の約百日分の賃金に当たる)ずつ渡しました。 14 ところがそこの住民の中には、その人が王になるのを快く思わない人々があり、反対の声を送りつけました。 15 さて、その人は王位を受けて帰ると、さっそく資金を預けた家来たちを呼び集め、報告をさせました。 16 最初の家来は、元金の十倍というすばらしい利益をあげたことを報告しました。 17 王は非常に喜び、『よくやった! 感心なやつだ。少しばかりのものにも忠実に励んでくれた。ほうびに、十の町を治めさせよう』と言いました。 18 次の家来が進み出て、元金の五倍の利益をあげたことを報告しました。 19 『よくやった! おまえには五つの町を治めてもらおう。』王は上きげんで言いました。 20 ところが、三番目の家来は、預かった資金をそっくりそのまま差し出すではありませんか。『私はお金を大切に保管しておきました。 21 せっかくもうけても、横取りされてしまうのではつまりません。あなたはほんとうにひどい方で、ご自分のものでないものまで取り立て、他人の作った穀物さえ取り上げる方ですから。』 22 王は激しく怒って言いました。『なんて悪いやつだ! わしが、そんなにひどい人間だと言うのか。それほどよくわかっていたのなら、 23 なぜ銀行に預けておかなかったのか。そうすれば、利息ぐらいついたのに。』 24 王は側近の者たちに、『さあ、彼から金を取り上げ、一番多くもうけた者に与えなさい』と命じました。 25 『ですが王様。あの者はもうすでに、たくさん持っていますが。』 26 王は言いました。『そのとおり。しかし、持っている者はさらに多く与えられ、持っていない者は、そのわずかな物さえ失ってしまうのだ。 27 それから、謀反を起こした者たちはすぐここに連れて来て、わしの目の前で殺してしまえ。』」

エルサレムを目前にして

28 話を終えると、イエスは先頭に立ち、エルサレムに向かわれました。

29 一行がオリーブ山のふもとのベテパゲとベタニヤの村に近づいた時、イエスは、先に二人の弟子を使いに出して、こう指示されました。 30 「さあ、あの村へ行って、道ばたにつないであるろばの子を捜しなさい。まだだれも乗ったことのないろばの子です。見つけたら、綱をほどいて連れて来るのです。 31 もしだれかにとがめられたら、『主がお入用なのです』とだけ答えなさい。」 32 二人は、言われたとおりろばの子を見つけました。 33 綱をほどいていると、持ち主が来て、「何をしているのだ。おれたちのろばの子をどうしようというのだ」と聞きただしました。 34 弟子たちは、「主がお入用なのです」と答え、 35 ろばの子を連れて来ました。そして、その背中に自分たちの上着を敷き、イエスをお乗せしました。 36-37 イエスがろばの子に乗って進んで行かれると、大ぜいの人が次々と上着を脱ぎ、道に敷いて並べました。この一団がオリーブ山のふもとに差しかかった時、群衆の中から大きな声が上がりました。イエスが行われたすばらしい奇跡のことで、神を賛美し始めたのです。

38 「神がお立てくださったわれらの王に
祝福があるように。
天よ、喜べ。
いと高き天で、神に栄光があるように。」

39 群衆の中にいたパリサイ人たちは、これが気に入りません。「先生。あんなことを言ってます。しかってください。」 40 ところが、イエスはお答えになりました。「その人たちが黙っても、道ばたの石が叫びだします。」

41 さらにエルサレムに近づいた時、イエスは都をごらんになり、都のために涙をこぼされました。 42 「永遠の平和がすぐ手の届くところにあったのに、この町はそれをはねつけてしまいました。もう遅すぎます。 43 敵が城壁に土塁を築き、町を包囲し、攻め寄せ、 44 子どもたちもろとも地面にたたきつけるでしょう。一つの石もほかの石の上に残らないほど、完全に破壊されます。この町は神の訪れの時を知らなかったからです。」

神殿での出来事

45 このあと、イエスは宮(神殿)に入り、境内で商売していた者たちを追い出しにかかりました。そして、強い調子で言われました。 46 「聖書に、『わたしの家(神殿)は祈りの家と呼ばれる』イザヤ56・7と、はっきり書いてあるではありませんか。それなのに、あなたがたは強盗の巣にしてしまったのです。」

47 その日からイエスは、毎日、宮で教え始められました。一方、祭司長や他の宗教的指導者、それに町の実力者たちは、イエスを殺すうまい方法はないかと、機会をねらっていましたが、 48 手出しができませんでした。民衆がみな、イエスを英雄視し、イエスの話に熱心に耳を傾けていたからです。

20 ある日、イエスが宮の中で人々を教え、福音を宣べ伝えておられると、祭司長や他の宗教的指導者たちが、イエスと対決しようとやって来ました。 彼らは、何の権威で商人たちを宮から追い出したのか、とイエスに詰め寄りました。 イエスはお答えになりました。「答える前に、まず、わたしから質問します。 バプテスマのヨハネは神に遣わされて来たのですか。それとも、ただ自分の考えを主張しただけですか。」 彼らは集まって、ひそひそ相談しました。「ヨハネの語ったことが神からの教えだと答えたら、なぜ信じなかったのかと言われるだろう。 かといって、神からでないと答えるわけにもいくまい。そんなことをしたら、今度は群衆が襲いかかって来るだろう。みな、ヨハネを預言者だと信じ込んでいるから。」 そこで彼らは、「わかりません」と答えました。 イエスは、「そうですか。では、わたしも答えません」とおっしゃいました。

それから、イエスはまた人々のほうを向き、次のようなたとえを話されました。「ある人がぶどう園を造り、それを数人の農夫に貸して外国へ行き、長いことそこに住んでいました。 10 やがて、収穫の季節になりました。主人は代理の者をやり、自分の分を受け取ろうとしました。ところが、農夫たちはどうしたでしょう。代理人を袋だたきにし、手ぶらで追い返したのです。 11 また別の代理人を送りましたが、彼もまた袋だたきにされ、さんざん侮辱されたあげく、手ぶらで追い返されました。 12 三人目の代理人も同じで、傷を負わされ、やっとの思いで逃げ帰りました。 13 考えあぐねた主人は、一人つぶやきました。『いったい、どうしたものか。そうだ、かわいい息子をやろう。息子なら、きっと農夫たちも一目おくに違いない。』 14 ところが、当の農夫たちは、主人の息子が来るのを見て、『おい、絶好のチャンスだぞ。あれは跡取り息子だ。さあ、あいつを殺そう。そうすれば、ぶどう園はおれたちのものだ』とささやき合いました。 15 そのことばどおり、農夫たちは息子をぶどう園の外に引きずり出し、殺してしまいました。さて、主人はどうするでしょう。 16 今度は自分で乗り込み、悪い農夫たちを皆殺しにし、ぶどう園はほかの人たちに貸すに決まっています。」この話を聞いていた人たちは、「そんな恐ろしいことがあるなんて、とても考えられません」と答えました。 17 しかしイエスは、人々の顔を見回しながら、おっしゃいました。「では、聖書に、

『建築士たちの捨てた石が、
最も重要な土台石となった』詩篇118・22
と書いてあるのは、どういう意味ですか。」 18 さらにことばを続け、「この石につまずく者はみな、打ち砕かれます。反対に、この石が落ちてくれば、だれもかれも粉みじんになります」と言われました。

19 祭司長や宗教的指導者たちは、この話を聞いて、その悪い農夫が自分たちを指していることに気づき、すぐにもイエスを捕らえたいと思いました。しかし群衆の暴動がこわくて、どうにもできません。

Japanese Living Bible (JLB)

Copyright© 1978, 2011, 2016 by Biblica, Inc.® Used by permission. All rights reserved worldwide.